ピリオド. ・4
文字数 1,126文字
「…ほんとに?」
「ほんとです。それなら、家に帰って体を休めてくれますよね?」
「うん…。でも、もしもちゃんと傍にいてくれなかったら…水風呂にでも入って悪化させるからね?」
「そっ、そんな怖いこと言わないでくださいっ。ちゃんと傍にいますから」
「約束だよ?」
「約束です」
満足げに口角を引き上げた城崎さんに向けて、やれやれと微笑みかけたとき、
タイムアウトを告げるかのようにスマホの着信音が鳴り響いた。
「あっ、すみません、ちょっと出ますね…、」
鞄の中に手を入れて弄 り、取り出した端末の着信画面を目にして一瞬固まる。
「———」
【 舞 雪 】
着信音が鳴り続ける中で、城崎さんが不思議そうな視線を寄越す。
「出なくていいの?」
「…、いえ、出ます、」
柔らかなアルカイックスマイルの裏で、意を決したように通知をスワイプさせた。
『…あ、柚月? 今、大丈夫?』
「うん、少しだけなら…、どうしたの?」
『あのね、さっき買い物に出てたんだけど、偶然お店で柚月のお母さんに会って…、柚月、近いうちにアメリカに行くって本当?』
「…、……うん」
『2、3年は日本から離れるって聞いたんだけど……そうなの?』
「うん、まあ…、そうなんだよね」
『あのね、柚月———』
舞雪は、私に大事な話があり、渡米する前にどうしても直接会いたいのだと、どこか切羽詰まったように続けた。
できれば今すぐにでも都合をつけて、その話とやらを聞いてあげたい。
けれど、城崎さんの前でこれ以上渡米に関することを口に出すことになったら困るから。
「えっと、ごめん、予定を確認しないと分からなくて…、後でまた折り返すから待ってくれる?」
把握しきっている空白の日程を敢えて濁し、手短に通話を終わらせた。
「……すみません、お待たせして。じゃ、帰りましょうか」
「電話、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。病人を長く放置できませんからね」
ちょっぴり冗談ぽく言うと、城崎さんは立ち上がりながら小気味よく言葉を打ち返した。
「でも、柚月ちゃん、前に病人の僕を置いて同窓会に行ったよね?」
「あのときは…、城崎さんは家に居ましたし。あのときも、ちゃんと心配してましたよ?」
「…ほんとかなあ」
「二次会へは行かずに、早めに帰って来たじゃないですか」
「だってそれは、アイスを食べたかったからでしょ?」
「あれは、城崎さんのため——…っ、いや、なんでもないですっ」
「やっぱりあのとき、僕のためにアイスを買って帰って来てくれたんだね」
「…、べ、別に…」
「改めて、ありがとう、柚月ちゃん」
あの日の早々の帰宅の意味を強く否定できない私を前に、口端を上げた小さな笑みを浮かべた城崎さんだったが、
「…っ、あ、れ…?」
余裕めいた足取りで一歩踏み出すも、次の瞬間、ぐらりと上体が揺れた。
→
「ほんとです。それなら、家に帰って体を休めてくれますよね?」
「うん…。でも、もしもちゃんと傍にいてくれなかったら…水風呂にでも入って悪化させるからね?」
「そっ、そんな怖いこと言わないでくださいっ。ちゃんと傍にいますから」
「約束だよ?」
「約束です」
満足げに口角を引き上げた城崎さんに向けて、やれやれと微笑みかけたとき、
タイムアウトを告げるかのようにスマホの着信音が鳴り響いた。
「あっ、すみません、ちょっと出ますね…、」
鞄の中に手を入れて
「———」
【 舞 雪 】
着信音が鳴り続ける中で、城崎さんが不思議そうな視線を寄越す。
「出なくていいの?」
「…、いえ、出ます、」
柔らかなアルカイックスマイルの裏で、意を決したように通知をスワイプさせた。
『…あ、柚月? 今、大丈夫?』
「うん、少しだけなら…、どうしたの?」
『あのね、さっき買い物に出てたんだけど、偶然お店で柚月のお母さんに会って…、柚月、近いうちにアメリカに行くって本当?』
「…、……うん」
『2、3年は日本から離れるって聞いたんだけど……そうなの?』
「うん、まあ…、そうなんだよね」
『あのね、柚月———』
舞雪は、私に大事な話があり、渡米する前にどうしても直接会いたいのだと、どこか切羽詰まったように続けた。
できれば今すぐにでも都合をつけて、その話とやらを聞いてあげたい。
けれど、城崎さんの前でこれ以上渡米に関することを口に出すことになったら困るから。
「えっと、ごめん、予定を確認しないと分からなくて…、後でまた折り返すから待ってくれる?」
把握しきっている空白の日程を敢えて濁し、手短に通話を終わらせた。
「……すみません、お待たせして。じゃ、帰りましょうか」
「電話、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。病人を長く放置できませんからね」
ちょっぴり冗談ぽく言うと、城崎さんは立ち上がりながら小気味よく言葉を打ち返した。
「でも、柚月ちゃん、前に病人の僕を置いて同窓会に行ったよね?」
「あのときは…、城崎さんは家に居ましたし。あのときも、ちゃんと心配してましたよ?」
「…ほんとかなあ」
「二次会へは行かずに、早めに帰って来たじゃないですか」
「だってそれは、アイスを食べたかったからでしょ?」
「あれは、城崎さんのため——…っ、いや、なんでもないですっ」
「やっぱりあのとき、僕のためにアイスを買って帰って来てくれたんだね」
「…、べ、別に…」
「改めて、ありがとう、柚月ちゃん」
あの日の早々の帰宅の意味を強く否定できない私を前に、口端を上げた小さな笑みを浮かべた城崎さんだったが、
「…っ、あ、れ…?」
余裕めいた足取りで一歩踏み出すも、次の瞬間、ぐらりと上体が揺れた。
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