苛立ちのメカニズム ・5

文字数 659文字


少し続いた沈黙の後。

「…ちょっと、コーヒー飲みに行ってくる」

おもむろに立ち上がって、キッチンカウンターに置いたままの愛車の鍵を手にする。

(今日は、本当にいろんなことがあった日だったから…)

なんとなく、一人になりたい気持ちになった。
それは、疲れたときに多く見られる私のルーティン。

「コーヒー? そんなのここで飲めばいいじゃん」
「なんかちょっと、カフェで味わいたい気分なんだよね」
「それじゃ、俺も付き合うよ」

言うが早くその場から立ち上がった颯太は、ジャケットを手に取りソファーから離れた。

(…マズイな…、こういったときの颯太は、言うことを聞いてくれない確率が高い)

鼻歌混じりにジャケットの袖に腕を通す颯太を見つめながら、断る理由を巡らせる。

「…あのさ。ちょっと、本も読むかも…だしさ」
「本?」
「うん。」
「じゃ、俺もマンガ読もっかなー」
「いやあの、無理に付き合ってくれなくても大丈夫だから」
「無理なんかしてねーよ、俺も行きたい」
「ほとんど話とかしないと思うよ?」
「構わねーから、俺も行くっ」
「はぁ…、まるで駄々っ子だな」
「俺が運転するからさ。な、柚月、いいだろ?」
「……」

…仕方ない。

懇願するような颯太の瞳の煌めきに、つい押し負ける。

「放置されても文句言わないでよ?」
「絶対言わねー」
「分かった…、じゃ、行こっか」

一人でのブレイクタイムを諦めて、廊下に続くドアへと踵を返したそのとき、

「女の子がこんな時間から外出なんて、あまり感心しないね」

踏み込んでくるように届いた城崎さんの言葉は、足早に進もうとする私の歩みを止めた。



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登場人物紹介

藤沢柚月(フジサワ ユヅキ)23歳

主人公

特異な経歴ゆえに若くして医師


H162cm

城崎咲也(キザキ サクヤ)26歳

私立探偵事務所の所長


H179cm

真鍋颯太(マナベ ソウタ)23歳
柚月の幼馴染


H170cm

石羽 響也(イシバ キョウヤ)27歳

柚月の友人


H175cm


久動 琉成(クドウ リュウセイ)28歳

柚月が勤める大学病院の先輩医師


H176cm

倉橋 舞雪(クラハシ マユキ)23歳

柚月の親友


H156cm

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