消せない想い ・2
文字数 1,300文字
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『アメリカに戻る前に少し時間が出来たから、久しぶりに会って話でもしないか?』
ある日の午後、一時帰国をしていた響也から、突然L〇NEが入った。
いつもいきなりの連絡で、都合が合わないときは断らざるを得ないが、今回は私もちょうど非番の日だったこともありもちろん快諾した。
以前、仕事の合間にうちに来たとき以来だから、響也に会うのは何ヶ月ぶりだろう。
あのときも、せっかく久しぶりに会えたというのに響也は仕事のスケジュールの変更を余儀なくされて、
結局ゆっくりすることができずに早々に帰ってしまったのだ。
『帰国してすぐに連絡を入れようとしたが、なかなか時間が取れずにいた』
私の返信後、すぐにポップアップされた内容に、その忙しさを想像して少し心配になる。
「ちゃんとご飯食べたり睡眠取ったりしてるのかな…、」
今までにも、何度か無意識に零れた独り言。
再会した暁には、友としてある程度の注意喚起も必要かもしれない。
「『今回は、そっちに行くから。』…と。…あ、そうだ、空港、」
多忙な響也の為にも、できる限り負担を掛けない場所で。
そう考えた私は、響也がアメリカに戻る便が離着陸する空港のカフェでの待ち合わせを提案し、返事を送信した。
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空港の一角にあるナチュラルテイストのカフェは思っていたよりも客数が少なく、
オリーブの木が映える窓辺の明るい席に座った私たちは、和やかな時間を過ごしていた。
先に響也の近況を聞き穿 り、順調な仕事ぶりや落ち度のない体調管理、平穏なプライベートの様子に安堵していると、
「俺のことはもういいだろう。おまえはどうなんだ?」
響也は痺れを切らしたように、いつもの低音を静かに並べ立てた。
「私? 私は見ての通り元気にしてるよ。…あ、そうそう、城崎さんの事務所がそろそろ完成するみたいでね」
「…、」
「想像してた以上に、とてもいい感じに仕上がってきてるみたいだよ」
「……そうか」
「事務所に必要な備品を買い揃えたり…、仕事と並行して引っ越しの準備も進めてるみたい」
「……」
「そんな感じで、城崎さんも忙しいながらも元気みたいだから、しばらく一緒に暮らしてきた者としては安心だよ」
奮闘する城崎さんの姿を想像すれば、自ずと頬が緩んで笑みが広がる。
でも、またすぐに別の感情が支配して切なくなるから、その微笑をすぐに引っ込めた。
「…柚月」
「ん? なに?」
「城崎のことはもういい。そもそもあいつのことは、最初から頭の片隅にもない」
「…そ、そっか、ごめん、響也も城崎さんと知り合いだったから、つい…」
「……」
短く嘆息した響也は、少しばかり探るように私を見据える。
「俺が聞きたいのは、おまえのことだ。仕事でのトラブルや辛いことはないのか?」
「ああ、うん…、仕事は今のところわりと順調かな。最近は、教授たちと衝突することもあまりないしね」
「…それならいいが」
「あ、でも、仕事のことと言えば、今までと少し変わることが一つあるかな」
「…『変わること』?」
「実はね、アメリカの大学から呼ばれて、しばらくの間、向こうに行こうと思ってるんだよね」
ホットコーヒーに一旦口を付けてから、
いろんな経験を積んでおきたいし…と、言葉を繋いだ。
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『アメリカに戻る前に少し時間が出来たから、久しぶりに会って話でもしないか?』
ある日の午後、一時帰国をしていた響也から、突然L〇NEが入った。
いつもいきなりの連絡で、都合が合わないときは断らざるを得ないが、今回は私もちょうど非番の日だったこともありもちろん快諾した。
以前、仕事の合間にうちに来たとき以来だから、響也に会うのは何ヶ月ぶりだろう。
あのときも、せっかく久しぶりに会えたというのに響也は仕事のスケジュールの変更を余儀なくされて、
結局ゆっくりすることができずに早々に帰ってしまったのだ。
『帰国してすぐに連絡を入れようとしたが、なかなか時間が取れずにいた』
私の返信後、すぐにポップアップされた内容に、その忙しさを想像して少し心配になる。
「ちゃんとご飯食べたり睡眠取ったりしてるのかな…、」
今までにも、何度か無意識に零れた独り言。
再会した暁には、友としてある程度の注意喚起も必要かもしれない。
「『今回は、そっちに行くから。』…と。…あ、そうだ、空港、」
多忙な響也の為にも、できる限り負担を掛けない場所で。
そう考えた私は、響也がアメリカに戻る便が離着陸する空港のカフェでの待ち合わせを提案し、返事を送信した。
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空港の一角にあるナチュラルテイストのカフェは思っていたよりも客数が少なく、
オリーブの木が映える窓辺の明るい席に座った私たちは、和やかな時間を過ごしていた。
先に響也の近況を聞き
「俺のことはもういいだろう。おまえはどうなんだ?」
響也は痺れを切らしたように、いつもの低音を静かに並べ立てた。
「私? 私は見ての通り元気にしてるよ。…あ、そうそう、城崎さんの事務所がそろそろ完成するみたいでね」
「…、」
「想像してた以上に、とてもいい感じに仕上がってきてるみたいだよ」
「……そうか」
「事務所に必要な備品を買い揃えたり…、仕事と並行して引っ越しの準備も進めてるみたい」
「……」
「そんな感じで、城崎さんも忙しいながらも元気みたいだから、しばらく一緒に暮らしてきた者としては安心だよ」
奮闘する城崎さんの姿を想像すれば、自ずと頬が緩んで笑みが広がる。
でも、またすぐに別の感情が支配して切なくなるから、その微笑をすぐに引っ込めた。
「…柚月」
「ん? なに?」
「城崎のことはもういい。そもそもあいつのことは、最初から頭の片隅にもない」
「…そ、そっか、ごめん、響也も城崎さんと知り合いだったから、つい…」
「……」
短く嘆息した響也は、少しばかり探るように私を見据える。
「俺が聞きたいのは、おまえのことだ。仕事でのトラブルや辛いことはないのか?」
「ああ、うん…、仕事は今のところわりと順調かな。最近は、教授たちと衝突することもあまりないしね」
「…それならいいが」
「あ、でも、仕事のことと言えば、今までと少し変わることが一つあるかな」
「…『変わること』?」
「実はね、アメリカの大学から呼ばれて、しばらくの間、向こうに行こうと思ってるんだよね」
ホットコーヒーに一旦口を付けてから、
いろんな経験を積んでおきたいし…と、言葉を繋いだ。
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