Step by Step ・6
文字数 1,111文字
(誰か倒れたか…、もしくは、何かの原因で深傷を負ったか…)
「……! 居た!」
辿り着いた先には、小さな子どもを抱えたままへたり込み、取り乱したように名前を連呼し続ける女性の姿があった。
「ちょっとすみません…、横、通りますっ…!」
垣根のように膨れ始める人だかりに身を滑り込ませて駆け寄ると、女性の前で膝を落とす。
「どうしました?」
「っ、娘がっ…、さっきいきなり、力が抜けたように、っ…なって、」
涙で濡れる唇を震わせながら、女性は嗚咽を漏らしつついきさつを語った。
少女は、推定年齢3歳。
白目をむき、体を硬く強張らせて小刻みに震えていて、顔面蒼白、少しチアノーゼも起こしている。
「…ちょっとごめんね、触るよ?」
意識が白濁している少女に語り掛けながら、その小さな額に優しく手を当てて脈を取る。
(熱性痙攣だな…)
腕時計を目視して時間を確認した後、きちんと着せられているブラウスの襟元を手早く緩めた。
「この子のお母さんですよね?」
「——っ」
問いかければ、女性は泣き声をそのままに力強く何度も頷く。
「お母さん、まずは落ち着いてください、」
「——…っ、」
「とにかく落ち着いて…、」
「…~~っ!!」
冷静な対応を促そうとしても、混乱しきりに女性は泣き続ける。
錯乱したような感情のバースト。
自分の子どもの異常事態なのだから、その気持ちももちろん分かる。
(分かる、けど…、)
「…———」
険しくさせた双眸を、この女性がどう思うのかは二の次で。
目の前の細い両肩を強く掴んだ私は、真っ直ぐに女性を見つめたまま、スッと息を吸い込んだ。
「誰がこの子の母親なんだ!? 泣いてばかりいないでしっかりしろっ!!」
「…っ、!!」
ざわついていた店内が一瞬で静まり返るほどの怒声。
眼前の女性は、瞬時に凍り付いたように固まり、目を瞬いた。
のんびりとぬるい対応なんかしていられない。
たとえどんなに軽い症状だったとしても、咄嗟の判断を鈍らせたら取り返しがつかくなることだってあるから。
それは、私の医師としての律格。
「今、一番苦しい思いをしているのは、取り乱すあなたではなく、お子さんなんです…!」
助けたいからこその厳格さを確 と滲ませた。
「…! っ、は、はい…っ、すみませんでしたっ…」
私の厳しい態度に目が覚めたように正気を取り戻した女性は、目元の涙をサッと拭うと、しっかりと視線を交差させてくる。
(もう大丈夫だな…)
「…お母さん、きつい物言いをしてしまって申し訳ありません。今から話すことを落ち着いて聞いてください」
「は、はいっ…」
怯えながらも女性の表情にはもう不安定な揺らぎはなく、力強く打ち返したその返事に安堵した私は、
速やかに簡素に、そして、できる限り穏やかに続けた。
→
「……! 居た!」
辿り着いた先には、小さな子どもを抱えたままへたり込み、取り乱したように名前を連呼し続ける女性の姿があった。
「ちょっとすみません…、横、通りますっ…!」
垣根のように膨れ始める人だかりに身を滑り込ませて駆け寄ると、女性の前で膝を落とす。
「どうしました?」
「っ、娘がっ…、さっきいきなり、力が抜けたように、っ…なって、」
涙で濡れる唇を震わせながら、女性は嗚咽を漏らしつついきさつを語った。
少女は、推定年齢3歳。
白目をむき、体を硬く強張らせて小刻みに震えていて、顔面蒼白、少しチアノーゼも起こしている。
「…ちょっとごめんね、触るよ?」
意識が白濁している少女に語り掛けながら、その小さな額に優しく手を当てて脈を取る。
(熱性痙攣だな…)
腕時計を目視して時間を確認した後、きちんと着せられているブラウスの襟元を手早く緩めた。
「この子のお母さんですよね?」
「——っ」
問いかければ、女性は泣き声をそのままに力強く何度も頷く。
「お母さん、まずは落ち着いてください、」
「——…っ、」
「とにかく落ち着いて…、」
「…~~っ!!」
冷静な対応を促そうとしても、混乱しきりに女性は泣き続ける。
錯乱したような感情のバースト。
自分の子どもの異常事態なのだから、その気持ちももちろん分かる。
(分かる、けど…、)
「…———」
険しくさせた双眸を、この女性がどう思うのかは二の次で。
目の前の細い両肩を強く掴んだ私は、真っ直ぐに女性を見つめたまま、スッと息を吸い込んだ。
「誰がこの子の母親なんだ!? 泣いてばかりいないでしっかりしろっ!!」
「…っ、!!」
ざわついていた店内が一瞬で静まり返るほどの怒声。
眼前の女性は、瞬時に凍り付いたように固まり、目を瞬いた。
のんびりとぬるい対応なんかしていられない。
たとえどんなに軽い症状だったとしても、咄嗟の判断を鈍らせたら取り返しがつかくなることだってあるから。
それは、私の医師としての律格。
「今、一番苦しい思いをしているのは、取り乱すあなたではなく、お子さんなんです…!」
助けたいからこその厳格さを
「…! っ、は、はい…っ、すみませんでしたっ…」
私の厳しい態度に目が覚めたように正気を取り戻した女性は、目元の涙をサッと拭うと、しっかりと視線を交差させてくる。
(もう大丈夫だな…)
「…お母さん、きつい物言いをしてしまって申し訳ありません。今から話すことを落ち着いて聞いてください」
「は、はいっ…」
怯えながらも女性の表情にはもう不安定な揺らぎはなく、力強く打ち返したその返事に安堵した私は、
速やかに簡素に、そして、できる限り穏やかに続けた。
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