不器用な心 ・6
文字数 1,153文字
「初等部の頃から、運動会も出られる競技が制限されてて、遠足なんかも行けないときがあって…」
「……」
「いろんなこと、たくさん我慢してきた子なんです。自分が辛かったり寂しかったりしても、それを少しも面 に出さずに…、どんなときも笑顔で、みんなにいつも優しくて。…でも、ある日、みんなで進級記念の制作に取り掛かっていたときに具合が悪くなってしまって、そのまま入院することになって…、そのときに、舞雪はたった一度だけ、『もうこんな体嫌だ。自分のやりたいことも全然できない』って、初めて私の前で泣いたことがあったんです」
「……」
「どうしてこんなに優しい子が辛い思いをしなきゃならないんだろうって…、私が友達としてできるだけのことはしてあげたいって、そのときに強く思ったんです。私にとって大切な…大好きな友達だから」
「……、」
「だから、私、」
「生まれながらにして抱える舞雪ちゃんの辛さは、とても気の毒に思うよ。でも、釈然としない」
そう言って溜め息を吐き出した城崎さんは、想像通りわずかな憤りと侮蔑をちらつかせた。
無理もない。
私のどんな切なる想いも城崎さんにしてみれば、ただの美化された友愛だとしか思えないのだろう。
「それがキミの優しさだったり、あの子への強い想いだったりするのは分かるけど、人によっては偽善だと思われてもおかしくないことだよね?」
「そうかもしれません。でも、」
「自分の気持ちを他所にやって、そんなのただの自己満足じゃない。キミのそんな想いを知れば、きっと舞雪ちゃんだってそう思うよ」
「分かってます…っ、結局は、自分本位で独りよがりなことをしてるって。だけど…、」
強く食い下がっておきながら、その言葉の先がうまく紡げない。
泣き出す一歩手前の顔を隠すように眉根を強く寄せて押し黙り、静かに目を伏せた。
「……、なんでそんなに、バカみたいに不器用なの…」
数秒にも数十分にも感じた深い沈黙を崩したのは、城崎さんの呟きと乾いた笑みで。
……そして。
「でも僕は…、そんなキミのことも好きだよ」
ブレることのない真っ直ぐな想いを真摯に告げた。
「キミ以外の女の子なんて全く眼中にない」
「…!」
「とっくに気付いてたでしょ? 僕の気持ち」
「……今ここで、そういうことを言うのって、卑怯です…」
「どうして卑怯だと思うの?」
「…っ、」
「キミにとっては僕の気持ちなんて、どうでもいいことでしょ? それなのに卑怯だなんて、どうしたの?」
「……そ、それは…、」
(それは……、私が、城崎さんのことが、好きだから…)
「………、」
「…言えない?」
「———…」
想いが喉奥に引っかかったまま、どうしても連ねることができない。
「……はぁ…。ここまで強情な子だなんて思わなかった」
突き放すような冷たい声。
プツリと、<赤い糸>の切れる音を聞いた気がした。
→
「……」
「いろんなこと、たくさん我慢してきた子なんです。自分が辛かったり寂しかったりしても、それを少しも
「……」
「どうしてこんなに優しい子が辛い思いをしなきゃならないんだろうって…、私が友達としてできるだけのことはしてあげたいって、そのときに強く思ったんです。私にとって大切な…大好きな友達だから」
「……、」
「だから、私、」
「生まれながらにして抱える舞雪ちゃんの辛さは、とても気の毒に思うよ。でも、釈然としない」
そう言って溜め息を吐き出した城崎さんは、想像通りわずかな憤りと侮蔑をちらつかせた。
無理もない。
私のどんな切なる想いも城崎さんにしてみれば、ただの美化された友愛だとしか思えないのだろう。
「それがキミの優しさだったり、あの子への強い想いだったりするのは分かるけど、人によっては偽善だと思われてもおかしくないことだよね?」
「そうかもしれません。でも、」
「自分の気持ちを他所にやって、そんなのただの自己満足じゃない。キミのそんな想いを知れば、きっと舞雪ちゃんだってそう思うよ」
「分かってます…っ、結局は、自分本位で独りよがりなことをしてるって。だけど…、」
強く食い下がっておきながら、その言葉の先がうまく紡げない。
泣き出す一歩手前の顔を隠すように眉根を強く寄せて押し黙り、静かに目を伏せた。
「……、なんでそんなに、バカみたいに不器用なの…」
数秒にも数十分にも感じた深い沈黙を崩したのは、城崎さんの呟きと乾いた笑みで。
……そして。
「でも僕は…、そんなキミのことも好きだよ」
ブレることのない真っ直ぐな想いを真摯に告げた。
「キミ以外の女の子なんて全く眼中にない」
「…!」
「とっくに気付いてたでしょ? 僕の気持ち」
「……今ここで、そういうことを言うのって、卑怯です…」
「どうして卑怯だと思うの?」
「…っ、」
「キミにとっては僕の気持ちなんて、どうでもいいことでしょ? それなのに卑怯だなんて、どうしたの?」
「……そ、それは…、」
(それは……、私が、城崎さんのことが、好きだから…)
「………、」
「…言えない?」
「———…」
想いが喉奥に引っかかったまま、どうしても連ねることができない。
「……はぁ…。ここまで強情な子だなんて思わなかった」
突き放すような冷たい声。
プツリと、<赤い糸>の切れる音を聞いた気がした。
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