Rainy Day ・4
文字数 958文字
「柚月先生は、若くても、どの先生よりも一流のお医者さんなんだからっ」
「さっ、櫻…っ?」
普段あまり聞くことのない櫻の突然の声量にビクリとなる。
「いきなりどうしたの?」
「朝から満員の外来診察に対応して、お昼ご飯を食べる間もなくオペに入って、休憩なんてほとんど取らずにカルテチェックして。柚月のこんな日々のルーティンを、口ばかりの教授たちはこなしてないっ!」
「櫻…、」
「これからも、教授たちなんかに負けたらダメだよ? 私はどんなときも柚月の…、先生の味方だからっ!」
真っ直ぐに見つめてくる櫻の瞳はいつになく真剣で。
最近は沈静化していると伝えたものの、彼女にはそれが虚勢だと感じたのか、私の元気のなさが、いつもの教授たちからのイビリ的なものだと思い込んでしまったらしい。
「…、」
櫻のような人に出会えたのだから、一期一会もなかなか捨てたものじゃない。
「ありがとう、櫻。これからも、元気に頑張るから」
「うんっ、ずっと応援してるからね」
彼女の頼もしい笑顔は、私の心にふわりとした暖かさを残した。
︙
「おかしいな…」
所詮、独自の天気予報なんてアテにはならない。
夕方と変わらずに雨を注いでくる空を苦笑とともに仰ぎ見ながら、玄関ホール付近で立ち尽くす。
「よしっ、走ろうっ」
自分が濡れようが転ぼうが気にしない。
駐車場まで、雨で水浸しの歩道を一気に駆け抜けた。
︙
びしょ濡れになった袖口を捲って腕時計に視線を落とすと、夜中の3時を回ったところだった。
「っ、くしゅん…ッ!」
思ったよりも、濡れちゃったな…。
リビングには寄らず、冷えた体を湯船で温めようとバスルームに続く廊下を急いで進む。
「おかえり」
「…!」
ギョッとして振り返ると、リビングのドアを開いて顔を覗かせている城崎さんと目が合った。
「遅くまでお疲れ様」
「城崎さん…、まだ起きてたんですか?」
「うん。さっきまで、部屋でちょっと仕事してたから」
言いながら静かに歩み寄る姿に、少しだけ緊張してしまう。
「…城崎さんこそ、遅くまでお疲れ様です」
強張ったようになる心をほぐしながら、差し障りのない礼節を伝えた。
「うん、ありがと。たとえ社交辞令でも、そんな風に言ってもらえると嬉しいね」
「……」
この人は、最初に会ったときからほんとに余計な一言が多いと思う。
ムッとなってしまいながら、口元を引き結んだ。
→
「さっ、櫻…っ?」
普段あまり聞くことのない櫻の突然の声量にビクリとなる。
「いきなりどうしたの?」
「朝から満員の外来診察に対応して、お昼ご飯を食べる間もなくオペに入って、休憩なんてほとんど取らずにカルテチェックして。柚月のこんな日々のルーティンを、口ばかりの教授たちはこなしてないっ!」
「櫻…、」
「これからも、教授たちなんかに負けたらダメだよ? 私はどんなときも柚月の…、先生の味方だからっ!」
真っ直ぐに見つめてくる櫻の瞳はいつになく真剣で。
最近は沈静化していると伝えたものの、彼女にはそれが虚勢だと感じたのか、私の元気のなさが、いつもの教授たちからのイビリ的なものだと思い込んでしまったらしい。
「…、」
櫻のような人に出会えたのだから、一期一会もなかなか捨てたものじゃない。
「ありがとう、櫻。これからも、元気に頑張るから」
「うんっ、ずっと応援してるからね」
彼女の頼もしい笑顔は、私の心にふわりとした暖かさを残した。
︙
「おかしいな…」
所詮、独自の天気予報なんてアテにはならない。
夕方と変わらずに雨を注いでくる空を苦笑とともに仰ぎ見ながら、玄関ホール付近で立ち尽くす。
「よしっ、走ろうっ」
自分が濡れようが転ぼうが気にしない。
駐車場まで、雨で水浸しの歩道を一気に駆け抜けた。
︙
びしょ濡れになった袖口を捲って腕時計に視線を落とすと、夜中の3時を回ったところだった。
「っ、くしゅん…ッ!」
思ったよりも、濡れちゃったな…。
リビングには寄らず、冷えた体を湯船で温めようとバスルームに続く廊下を急いで進む。
「おかえり」
「…!」
ギョッとして振り返ると、リビングのドアを開いて顔を覗かせている城崎さんと目が合った。
「遅くまでお疲れ様」
「城崎さん…、まだ起きてたんですか?」
「うん。さっきまで、部屋でちょっと仕事してたから」
言いながら静かに歩み寄る姿に、少しだけ緊張してしまう。
「…城崎さんこそ、遅くまでお疲れ様です」
強張ったようになる心をほぐしながら、差し障りのない礼節を伝えた。
「うん、ありがと。たとえ社交辞令でも、そんな風に言ってもらえると嬉しいね」
「……」
この人は、最初に会ったときからほんとに余計な一言が多いと思う。
ムッとなってしまいながら、口元を引き結んだ。
→