赤い糸 ・8
文字数 1,034文字
「なっ…何言ってるんですか、手なんか繋いだら、変に思われますよっ」
「いいじゃない。今日の僕たちは恋人なんだから」
「あくまでも(仮)の、偽装の恋人ですからっ」
「偽装でも、今は恋人でしょ?」
「とっ…、とにかくダメですっ」
「えーっ、つまんないなあ」
「つまらなくないですっ」
(…不覚にも、またドキドキしてしまった)
やっぱりこの人はいちいち心臓にくる。
内心で平常心を立て直しながら、その後あまり城崎さんとは目を合わせることなく、
会話もそこそこに発表会までの時間を過ごした。
︙
いよいよ、ゆなちゃんのクラスが出演する舞台の開演時間になり、私と城崎さんは招待状に書かれている座席番号を探して腰を掛ける。
普段は何の変哲もないパイプ椅子が、リボンやペーパーフラワーで可愛くデコレーションされていて、
接待客をもてなしてくれる想いが伝わるようで心がほっこりした。
「今からみんなで魔女が住む城へ行き、魔女を封印するのです! みんなで力を合わせれば、必ず【心のかけら】を取り戻すことができるでしょう!」
マイク越しの担任の先生の声が、会場に響き渡る。
舞台劇の脚本は先生のオリジナルで、
優しさの根底となる【心のかけら】が魔女に奪われ、それを取り戻すために奮闘する勇者や妖精たちの物語。
「さあ! みんなで力を合わせましょう!」
「よーし! 行くぞー!」
「えいえい、おーっ!!」
ゆなちゃんの良く通る声と愛らしくも明達な表情が、物語全体を引き締めて彩ってゆく。
それは、まだ幼い園児たちが演じているという現実を忘れるほどの出来栄えで、
すっかり感情移入した私は、彼らが紡いでいくストーリーの行く末を舞台下から熱く見守っていた。
やがて、物語は佳境に差し掛かり、
「よしっ! みんな、今だっ!」
〔…ウゥ、ググッ…、〕
「もう少しだっ、ガンバレ!」
〔ウグッ、…ギ、ギャアアアアーーーァ!! …ッ———…〕
「…! やったあ!!」
舞台奥手の大きなスクリーンに映し出された仰々しい魔女をようやく退治した園児たちは、
無事に【心のかけら】が詰まった宝箱を取り戻し、物語は終演を迎えた。
「…、」
(ゆなちゃん、みんなも、よく頑張った…! 素晴らしかったよ…!)
感無量で舞台を見つめる私の双眸は、まるで保護者のそれと同じで。
零れる笑みをそのままに、隣に座る城崎さんに振り向けば、すぐに気付いた彼がこちらに視線を寄越してくる。
「みんな、とても上手だったね」
微笑み返してくれた優しい瞳の奥は、園児たちの活躍を讃えるように燦燦と煌めいていた。
→
「いいじゃない。今日の僕たちは恋人なんだから」
「あくまでも(仮)の、偽装の恋人ですからっ」
「偽装でも、今は恋人でしょ?」
「とっ…、とにかくダメですっ」
「えーっ、つまんないなあ」
「つまらなくないですっ」
(…不覚にも、またドキドキしてしまった)
やっぱりこの人はいちいち心臓にくる。
内心で平常心を立て直しながら、その後あまり城崎さんとは目を合わせることなく、
会話もそこそこに発表会までの時間を過ごした。
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いよいよ、ゆなちゃんのクラスが出演する舞台の開演時間になり、私と城崎さんは招待状に書かれている座席番号を探して腰を掛ける。
普段は何の変哲もないパイプ椅子が、リボンやペーパーフラワーで可愛くデコレーションされていて、
接待客をもてなしてくれる想いが伝わるようで心がほっこりした。
「今からみんなで魔女が住む城へ行き、魔女を封印するのです! みんなで力を合わせれば、必ず【心のかけら】を取り戻すことができるでしょう!」
マイク越しの担任の先生の声が、会場に響き渡る。
舞台劇の脚本は先生のオリジナルで、
優しさの根底となる【心のかけら】が魔女に奪われ、それを取り戻すために奮闘する勇者や妖精たちの物語。
「さあ! みんなで力を合わせましょう!」
「よーし! 行くぞー!」
「えいえい、おーっ!!」
ゆなちゃんの良く通る声と愛らしくも明達な表情が、物語全体を引き締めて彩ってゆく。
それは、まだ幼い園児たちが演じているという現実を忘れるほどの出来栄えで、
すっかり感情移入した私は、彼らが紡いでいくストーリーの行く末を舞台下から熱く見守っていた。
やがて、物語は佳境に差し掛かり、
「よしっ! みんな、今だっ!」
〔…ウゥ、ググッ…、〕
「もう少しだっ、ガンバレ!」
〔ウグッ、…ギ、ギャアアアアーーーァ!! …ッ———…〕
「…! やったあ!!」
舞台奥手の大きなスクリーンに映し出された仰々しい魔女をようやく退治した園児たちは、
無事に【心のかけら】が詰まった宝箱を取り戻し、物語は終演を迎えた。
「…、」
(ゆなちゃん、みんなも、よく頑張った…! 素晴らしかったよ…!)
感無量で舞台を見つめる私の双眸は、まるで保護者のそれと同じで。
零れる笑みをそのままに、隣に座る城崎さんに振り向けば、すぐに気付いた彼がこちらに視線を寄越してくる。
「みんな、とても上手だったね」
微笑み返してくれた優しい瞳の奥は、園児たちの活躍を讃えるように燦燦と煌めいていた。
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