第203話 痛みとペインと

文字数 1,146文字

「う~ん、参ったなあ」
 雑貨店で、マリアが小物ケースを両手に悩んでいる。

「わあ、いいね。この小物入れ」
 ストックホルムの街並みをあしらった、収納グッズである。

「ただ、色は白・黒・茶しかないのよね」
 マリアが白と黒のストックホルムを上げ下げする。

「ストックホルムの街自体がカラフルだから、そこが惜しいよね」
 メシヤが腕組みする。小物をストックするホルムをしているので、あともうひと押ししたいところだ。

「あいだを取ってこっちかな」
 マリアが茶色いほうをレジに持って行こうとした。

「マリア、ちょっと待って! 白にしよう」
 メシヤがめずらしくリーダーシップを発揮した。

「え~、白かあ」
 不満げなマリア。

「欲しい色が無いときは、自分好みにカラーリングしちゃえばいいんだよ」
 メシヤの提案に、マリアも納得したようだった。



 雑貨店の建物とは別棟の、同じ敷地内にある間宮模型に移動した。

「色は、まあこの辺のでいいわね」
 マリアは聞き慣れない名称の塗料を、カゴに7色入れた。
ホームセンターではここまでのラインナップは揃わない。間宮模型ならではである。
「クリアも忘れずにね」
 メシヤは間宮模型の常連である。

「筆って結構高いのよね」
 マリアが財布を気にする。

「プライマーの筆は100均のでいいよ。すぐ痛むからね。でもこの小物ケースは作りがこまかいから、ちょっと高くても細くて柔らかい筆が何本かあるといいかな」
 色ムラを何度も経験して、塗装は上達していく。

「ヤスリもいるんじゃない?」
 マリアもペイントが初めてと言うわけではない。

「そうそう。それとヤスリ掛け後の掃除用ブラシも欲しいけど、これも100均のでOKだよ」

「おっ、メシヤくんにマリアちゃん! まいど!」
 店主の間宮械造(まみやかいぞう)が小用から戻ってきた。
メシヤが今回の経緯を軽く説明した。

「ふむふむ。素晴らしいねえ。ここは模型店だから当然模型に塗るお客さんばかりが来てくれるんだけど、メシヤくんとマリアちゃんみたいな使い方をしてくれるのも本望だよ」
 間宮は終始ご機嫌である。

「械造さんのお店はすごいんだよ。プラスチック用だけじゃなくて、木用や金属用のもあるんだ」
 メシヤが傷んだグッズをリニューアルする時に、大いに利用させてもらっている。

「ああ、そっちの方はメインの棚には置いてないんだけど、扱わせてもらってるんだよ」
 それを聞いて、マリアの創作意欲もメラメラと湧いて来たようである。

「前に鉄用の塗料をアルミに塗って失敗したことがあるんだけど、その辺も詳しく教えてもらいましたよね」
 それぐらいなんてことないよと、械造は両手を広げた。

製造ラインの生産性と在庫管理の都合上、色のラインナップはどんどん縮小される傾向にある。こうして自塗りすれば、満足感と達成感も一入(ひとしお)だろう。








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