第164話 old year out, new year in

文字数 1,007文字

「お兄ちゃ~ん、年賀状届いてるよ~」
 藤原家の赤い郵便受けには、ある細工が施してある。なにしろ、メシヤのバックグラウンドを知るものが、いつなんどき危険物を送り込んだり、メシヤへの配達物を掠め取るやも知れない。これは内調の仕事である。

「こんな時代にもまだ紙の年賀状を書いてくれるってのが嬉しいなあ」
 メシヤのクラスメイトがくれた年賀状は、どれも手の込んだイラストと一文が添えてあり、新年の始まりを彩っている。

 たいてい、店側が常連のお客さんを繋ぎ止めるためにハガキを出したりするものだが、メシヤの元にはその常連さんから年賀状が届いたりする。

「あっ、麗ちゃんだ」
 マナも年賀状を書くのだが、彼女の世代は手書きなどとてもとてもという感覚で、生涯で年賀状を出したことが無いという児童も珍しくない。ただ、SNSであけましておめでとうのキラキラしたデジタル年賀状は届く。

 件の麗ちゃんだけでなく、次から次へとマナのもとにデジタル年賀状が届き、お礼の返信をしている。ただ、マナはその子達に、手書きの年賀状を出してはいるのだが。

「お前、それ大変じゃない?」
 ただでさえ友達の多いマナ。

「正直に言うとね。だけど、こうやってデジタルでも送ってくれる友達がいるっていうだけで、すごくありがたいことなんだと思うよ」
 マナのいう通り、気に掛けてもらっている間が花だ。筆無精でどんどん扉を閉ざしていくと、気付いたときには・・・。


「いつもの論争を蒸し返すけどさ、スマホの功罪だよな。便利になったのは誰もが認めるところ! だけど、自分の時間がどんどん無くなってしまうこのジレンマ」
“このシステムを導入すると、管理がはるかに楽になります”との触れ込みで採用されたものは、それを維持するためにいままでにしなくても良かった余計な入力作業が大幅に増えてしまった。初期投入費も年間契約費も、バカにならない金額だ。

 データ収集のためにとやむなく協力をしていた国民も多いと思うが、統計データを改竄する極悪なニュースが報じられたばかりである。

「そういったところまで見越して、システムを設計するのが本当の凄腕エンジニアなんだよね」

「デジタル機器の話だけで納まらなくなりそうなテーマだな。みな明日の糧を求めて生きている。学校とは、仕事とは、住まいとは、生きがいとは・・・みたいな」

「年の初めに大きく出たね!」
「ああ、Life plan engineering だな」




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