第126話 キウィタス・マキシマ(世界国家)

文字数 1,239文字

「聞こえるか、メシヤくん」
 いまとなっては、アメリカ大統領とネット対談するまでの待遇である。

「感度良好だよ、ボウスハイトくん」
 二人以外は、誰ものぞけない鉄壁のセキュリティである。

 メシヤの自室にあるPCは、自作したものである。家電量販店に陳列されているPCに不満のある方も多いことだろう。長い時間PC画面を見つづける現代だが、魅力のあるマシンはお世辞にも豊富とは言えない。

「君の部屋らしいな」
 メシヤの趣味は、落ち着きや統一感とは対極である。手元のキーボードも変わっている。ゲーミングPC用のものはカラフルに光ったりするが、それともまた違う。キーをひとつひとつ取り外して、メシヤ好みに彩色している。一般的なキーの数は109個あるが、全部違う色にしているほどの入れ込み用だ。

「ボウスハイトくんこそ、やっぱり大統領ともなると、荘厳な仕事部屋だね」
ボウスハイトの部屋は、贅沢に木材を使用した本格的な室礼(しつらい)である。

「いや、これは自室なんだよ」
 ボウスハイトは顔を動かさず落ち着いた口ぶりだ。

「いやあ、ボウスハイトくんらしさが出てるなあ」
 メシヤは見蕩(みと)れている。

「ジェニーから聞いているよ。私も君の料理を食べてみたいものだ」
 ボウスハイトは体も大きいせいか、かなりの大食漢である。

「喜んで作らせてもらうよ! そうだ、このネット会議も食べながらでもいいかな?」
「ああ、もちろんだ」

 ボウスハイトの許可をもらうと、メシヤは一旦画面から消えた。

 60秒後、メシヤは手にローリーポーリーを持ってあらわれた。一方、ロックフォーゲル大統領の手元には、ロックフォールチーズケーキが映し出されていた。

「堅苦しい話は無しにしたいのだが」
「プロミネンスの災禍まっただなかだからね」

「人のいい君には酷な話だが、この世には尋常ただならない思考を持つ者たちがいる。そうした輩は、決して表には出て来ない」
 ボウスハイトの意図を計りかねたメシヤだが、早合点はしないように気をつけていた。

「そうかも知れないね」
 メシヤはボウスハイトと論戦はしたくなかった。メシヤの基本思想は、悪をやっつけるのではなく、悪に対しても「そんなつまらないことはやめて一緒に楽しいことしない?」とpartyをどんどん増やしていくことである。

「猛威をふるうプロミネンスだが、いつまでも続くわけではない。スペイン風邪のようにな」
 歴史の教訓としては知っていても、実際その渦中に身を置いている当事者には、終わりが見えない日々である。

「せっかくハイパーループで六大陸が繋がったんだから、この状況から一刻も早く抜け出したいね!」

「そのハイパーループなのだが、ジェニーから私のところに連絡があったよ。またもや君の発案らしいじゃないか」

「あ~、あれね。オブライエンさんの力を借りないと無理だからね」
 ハイパーループの各大陸にあるターミナル駅から、路線を宇宙に向けて滑走路とする。"ミカエルの翼"という呼称は、こうした主目的に由来していた。







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