第39話 時の旅人
文字数 1,421文字
メシヤくんは、歴史というものをどのように定義しますか?」
「それは・・・人類の変遷の記録、かな?」
「エクサラン」
レオンは次の質問に移る。
「では、時間旅行はどのように可能だと思いますか?」
「それが出来たら、文句なしのノーベル賞ものだね!」
「ふふっ」
「う~ん、見当もつかないな」
「こういうことは考えられませんか?」
「うん?」
「メシヤくんがローマ時代にタイムスリップして、カエサルに逢いに行きたいとします」
「ふむふむ」
「ローマ時代の記録は文献で残っています。その時代と同じ建物・環境・法制度をそっく
りそのまま、現代に再現すればいいのです」
メシヤは口をあんぐり開ける。
「だけど、カエサルはいないよね?」
「新しく生まれた赤子を、カエサルのように育てればいいのです」
「面白い話だけど、もはや時間旅行じゃないね」
「メシヤくんは、過去のものはただ単に古臭くて使えない、そして、未来のものはどれも
先進的で優れていると、お考えですか?」
「それは・・・、違うけど・・・」
「暦、なんてものは、人々が認識するための便宜的な道具でしかありません。いついかな
る時代に、正史世界には無かった文明が誕生しても、おかしくありません」
「てことは、正史世界でははるか1000年後にしか来なかったはずの文明・歴史的イベン
トが、時計を早回ししてたった一年後に起こるということもありえる、と」
「まさに、おっしゃる通りです」
メシヤの物分りの良さに、レオンの講義も熱を帯びてきた。
「その時計の針を進めるのも遅らせるのも、為政者たるリーダーの資質に大きく左右されます。だってそうでしょう? 人々の心がまとまらずバラバラだったら、歴史の舞台は停滞したままのはずです」
メシヤの両目に力がこもる。
「この世の物質・人間は、ほうっておいたらどんどん無秩序になっていくわけですが――」
「エントロピー増大の法則だね」
「はい。この法則により、将来の宇宙は徹底的に破壊され、秩序は崩壊し、混沌とすると
言われています。ですが、それとは逆向きにエントロピーを減少させるファクターがご
く稀に存在するのです。それがあなたです」
メシヤは黙って耳を傾ける。
「これは散逸構造論と呼ばれます。あなたという“ゆらぎ”が、小さな影響を周りに与え、
それがどんどん渦巻きになって広がっていく。そして、その渦巻きからあなたにフィー
ドバックされ、秩序を強化するように相互作用を及ばす」
「あなたがエネルギー増幅器、永久機関とされる所以です。現にあなたが関わっていない
世界では、常に諍 いや暴力が絶えません。日本の政治もひどいものでしょう? これもすべてエントロピー増大の法則通りなのです。あなたが関わらなければ、世界はどんどん破滅に向かいます」
「う~む・・・」
顎に親指と人差し指を当て考え込むメシヤ。
「古代アトランティスは、いまとは比較にならないくらい優れた文明でした。資本家によ
る搾取などなく、働くと言っても一日に1、2時間程度です。あとは好きな本を読んで
思索を深めたり、趣味の時間を満喫したり、人々が集まって憩いの時間を過ごしたりし
ていました。
「楽園、だね」
「そのパラダイスを復活させるのが、あなたの使命なのです」
「喜んで協力するよ」
「安心しました。これで私もジョセフィンに逢えそうです」
「で、どうやってニュー・アトランティス(黄金郷)を復活させるのかな?」
「はい。まず、このエメラルド・タブレットを・・・」
「それは・・・人類の変遷の記録、かな?」
「エクサラン」
レオンは次の質問に移る。
「では、時間旅行はどのように可能だと思いますか?」
「それが出来たら、文句なしのノーベル賞ものだね!」
「ふふっ」
「う~ん、見当もつかないな」
「こういうことは考えられませんか?」
「うん?」
「メシヤくんがローマ時代にタイムスリップして、カエサルに逢いに行きたいとします」
「ふむふむ」
「ローマ時代の記録は文献で残っています。その時代と同じ建物・環境・法制度をそっく
りそのまま、現代に再現すればいいのです」
メシヤは口をあんぐり開ける。
「だけど、カエサルはいないよね?」
「新しく生まれた赤子を、カエサルのように育てればいいのです」
「面白い話だけど、もはや時間旅行じゃないね」
「メシヤくんは、過去のものはただ単に古臭くて使えない、そして、未来のものはどれも
先進的で優れていると、お考えですか?」
「それは・・・、違うけど・・・」
「暦、なんてものは、人々が認識するための便宜的な道具でしかありません。いついかな
る時代に、正史世界には無かった文明が誕生しても、おかしくありません」
「てことは、正史世界でははるか1000年後にしか来なかったはずの文明・歴史的イベン
トが、時計を早回ししてたった一年後に起こるということもありえる、と」
「まさに、おっしゃる通りです」
メシヤの物分りの良さに、レオンの講義も熱を帯びてきた。
「その時計の針を進めるのも遅らせるのも、為政者たるリーダーの資質に大きく左右されます。だってそうでしょう? 人々の心がまとまらずバラバラだったら、歴史の舞台は停滞したままのはずです」
メシヤの両目に力がこもる。
「この世の物質・人間は、ほうっておいたらどんどん無秩序になっていくわけですが――」
「エントロピー増大の法則だね」
「はい。この法則により、将来の宇宙は徹底的に破壊され、秩序は崩壊し、混沌とすると
言われています。ですが、それとは逆向きにエントロピーを減少させるファクターがご
く稀に存在するのです。それがあなたです」
メシヤは黙って耳を傾ける。
「これは散逸構造論と呼ばれます。あなたという“ゆらぎ”が、小さな影響を周りに与え、
それがどんどん渦巻きになって広がっていく。そして、その渦巻きからあなたにフィー
ドバックされ、秩序を強化するように相互作用を及ばす」
「あなたがエネルギー増幅器、永久機関とされる所以です。現にあなたが関わっていない
世界では、常に
「う~む・・・」
顎に親指と人差し指を当て考え込むメシヤ。
「古代アトランティスは、いまとは比較にならないくらい優れた文明でした。資本家によ
る搾取などなく、働くと言っても一日に1、2時間程度です。あとは好きな本を読んで
思索を深めたり、趣味の時間を満喫したり、人々が集まって憩いの時間を過ごしたりし
ていました。
「楽園、だね」
「そのパラダイスを復活させるのが、あなたの使命なのです」
「喜んで協力するよ」
「安心しました。これで私もジョセフィンに逢えそうです」
「で、どうやってニュー・アトランティス(黄金郷)を復活させるのかな?」
「はい。まず、このエメラルド・タブレットを・・・」