第25話 Devil’s Dozen

文字数 769文字

 赤い絨毯の敷かれた広間が見える。13段のステップを登りきったところに、瀟洒な金細工を施した椅子があった。そこに何者かが座っている。顔はよく見えない。

「ダニエル」
「はっ」
 片膝をつき、かしずくダニエル。

「失敗したようだな」
「申し訳ございません」

「私の計画は知っているな」
「もちろんでございます」

「私はな、あんな古ぼけた遺物が欲しいわけじゃないんだ。メシヤを本気で怒らせ、黄金の剣・白銀の剣の本来の力を引き出させたかったのだ。分かるな」
「はい」

「だが、妹が使えることは分かった。あいつには物理的な攻撃は無意味だが、今後の方策は見えてきた」
「そうですね。メシヤは武力では制圧できないでしょう。なにせ、ヤツ自身が最終兵器ですから」

こんな密談が交わされているとも知らず、メシヤはいたって平常運転である。


「これどうやって使うのかなー」
 メシヤは聖杯を撫で回したり、ひっくり返したりして眺めていた。
「お兄ちゃん、使い方分かった~?」
 マナはこのあいだの人質騒動のことも苦にせず、あっけらかんとしていた。

「お前も我が妹ながら、たくましいね」
「アレクサンダーや信長だって、女の人から産まれたんだよ? 女はそれ以上に強いってことじゃない」
「違いないな」
 感心するメシヤ。

「それさ、洗ったほうがいいんじゃない?」
 聖杯という名前とは裏腹に、それはホコリにまみれてみすぼらしかった。
「水で洗ったくらいじゃ落ちなさそうだな。ガンコな汚れだよ」
「そうだね。焦げた鍋はもうどうしようもないけど、そんな感じだね」
「鍋のアルミが溶けるぐらい熱して、また固めたら汚れも剥がれそうだけどな」
「そんなのどうやってやるのよ~」

 マナの返答を聞いて不敵に笑うメシヤ。
「忘れたか? いまの俺にはこいつがあるってことを」
 両手で腰の二刀を触るメシヤ。妹には一人称が俺である。
「あー!」





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