第1話 恐怖の大王

文字数 1,392文字

   
一九九九年七の月
天から恐怖の大王が降ってくる
アンゴルモアの大王を蘇らせ
その前後にマルスは平和に支配するだろう








 二〇世紀末、世にも珍しい天体ショーが起きたことを、ご記憶だろうか? それも立て続けに二度だ。地球を中心に、太陽系の惑星たちが十字を切るように(はりつけ)されたのだ。
 
――グランドクロス――
 
  第一陣は一九九九年八月十一日。第二陣はわずか一週間後の八月十八日。
 この物語は、その両日に生を受けた、二人の男を取り巻くヒズ・ストーリーである。
 はてさて、男たちの因果が交差するのは、彼らの宿命とは裏腹の、実にのんびりした田園地帯であった。
 日本の東西南北の結節点。三重県立北伊勢高等学校(みえけんりつきたいせこうとうがっこう)は、そんな要衝地にある。
 
 北伊勢市(きたいせし)の中ほどに、「めし屋フジワラ」という地元で愛される大衆食堂があった。一年G組の悪童たちは、クラブ活動が終わると、よくここでたむろしていた。
 藤原家の跡取り息子は、屋号をそのまま名付けられるほど、期待されて育った。藤原(ふじわら)メシヤ。彼を一言で評するのは困難だが、会って二言三言も喋れば、すぐ変わり者だと気づくだろう。
 成績は芳しくないが、興味の幅は広く、すぐのめり込むタイプだ。不思議な事が三度のめしより好きで、ミステリー雑誌『月刊モー。』も愛読している。所属はサッカー部だ。

「ソースにする? それともあんかけ?」
「いや、醤油がいいな」
「あいよ!」
 器用に両の手で中華鍋とお玉を操り、手早く料理するメシヤ。
オーダーした客は、建築雑誌『家造りは人づくり』を読んでいる。

「いっちょあがり! これがオラの究極至高焼きそばだ〜!ぞなもし!」
「いちいち暑苦しい奴だな」
 メシヤが料理したバンブー焼きそばを頬張っているのは、十九川(とくがわ)イエスという。大柄で鍛え抜かれた躯体、弓なりの唇に意志の強そうな眼。成績も優秀で、父親は大手ゼネコングループ創業者の系譜らしい。部活は野球部で、一年からレギュラーを任せられている。これでモテナイ訳がない。

「マナちゃん、お茶をくれ」
「は~い」
 メシヤには4つ年の離れた妹がいる。マナとはまな板から名付けられたのかと思いきや、古代ユダヤに伝わる三種の神器、マナの壺から名付けられたらしい。多くの飢えに苦しむ民を助けた逸話が残っている。あれはいいものだ。

「メシヤ、お前まだあそこに通ってるのか?」
「うん、もう少しでフラグメントが繋がりそうなんよ」
 推理探偵のような物言いのメシヤ。
「でも、マリアが見張ってて、うかつに近寄れないんだよなあ」
 安倍(あべ)マリア。聖ヨハネ北伊勢教会のシスターである。なんの因果かメシヤたちと同じ1年G組。神のはしためにしては、普段はド派手な外見で髪型が日替わりである。

「知ってる? イエス。聖ヨハネ北伊勢教会の女神像」
「ああ、ほかの女神像とは異質だからな」
「でしょ~」
「女神様が両手に剣を握ってるんだもんな」
「うんうん」
メシヤのタレ目が大きく見開く
「だけどあの剣、ボロボロじゃないか?」
「そうなんさなー」
「お兄ちゃん、またマリアさんに追いかけ回されるよ!」
 マナがナイフとフォークをかざして、マリアに食べられるかのようなモノマネをする。
「お前、マリアには煙たがられてるけど、神父さまには一目置かれてるよな」
「神父さまは僕の数少ない理解者だよ」
「で、どうする?」
「夜を待とう。ふたふたまるまるに決行だ!」

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