第8話 火・水

文字数 636文字

「やっぱりな」
 メシヤの両目は六歳児のように輝いていた。

「火(か)・水(み)」という言霊がある。陰陽思想において、左手は陽で火と結びつく。右手は陰で水と結びつきやすい。オカルトマニアのメシヤには朝飯前の知識だった。

「南に向かった時に左手は太陽の昇る方角になるだろ? ひだりっていうのは日照りのことなんだ。だからひだりの「ひ」は陽でも表し、火にもなるんだ」

「ふむふム。じゃあ、右ハ?」
 エリが興味津々という表情で促す。

「人間は9割が右利きだろ? 武器を握る手→ニギル→ニギ→ミギってことなんだよ。南に向かった時に右手は太陽の沈む方角だから、陰で表せる。みぎは『み』が付いてるから水と関わりが深い。水限(みぎり)って言葉もあるしな」

 レマは尊敬のまなざしでメシヤを見つめている。そのレマにマリアが一瞬目をやる。

 メシヤが斜め45度下を向いて親指と人差し指で顎を触り、何かを考えている。

 マリアはそれを見てヤバイと感じた。この状態の時のメシヤは、たいてい破天荒で奇天烈なことに思いを馳せている最中なのだ。

「みそぎ滝にいぐぜ!」
 こうなったらメシヤは止められない。マリアは落胆しつつも、遅れて後を追いかけて行った。

 エリとレマもメシヤの熱気に当てられたが、そこは砂漠のお国柄なのか、迷うことなく付いて行った。

「おい、カツ丼はどうした」
 イエスが腹をすかせて抗議したが、訴訟相手はもうそこにはいなかった。
「私が作りますね、イエスさん」
 まだ11歳の少女が、不肖の兄のメシスタントをカツて出た。





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