第146話 狐になったマリア

文字数 1,378文字

「ふあぁ」
 マリアの朝は早い。早起きは三兆の徳が信条である。顔を洗おうと階下に降りる。

「は!?」
 鏡を見て我が目を疑うマリア。

「なによこれーーッ!」


~~~~~~~~~~~

「あの、メシヤさま」
 登校が一緒になったレマが話し掛ける。

「どうかした?」
 メシヤはすこし眠たげだ。

「さっきから、後ろにキツネがついてくるのですが」
 振り返るメシヤ。

「可愛いけド、エキノコックスがあるから気をつけないト」
 エリは警戒している。

「いや、それよりもこの辺で野生のキツネって珍しいよ」
 メシヤは一気に眠気が覚めた。

「顔はどちらかと言うとタヌキ顔ですわね」
 レマは仕事柄、モンタージュが得意である。

「あれ、あの髪飾り・・・」
 メシヤが何かに気付いた。

「あッ、いつもマリアがしてるバレッタだネ!」
 キツネが喜びの表情を浮かべた。

「マリアさまが落としたモノを拾ったのでしょうか?」
 キツネがずっこけた。

「みなさん、おはようございます」
 めずらしく登校中にレオンと一緒になった。

「あ、レオンくん、おはよう! あのさ」
 メシヤが言い終わる前に、先にレオンが口を開いた。

「あのキツネはマリアさんではありませんか?」
 レオンは、動物はもちろんのこと、植物や鉱物ともコミュニケーションを取れる。

「「え~~ッ!」」



「ふむ」
 教室でイエスに事情を話すと、なにやら考え始めた。

「多分あれだな。このあいだみんなでおちょぼさんに行っただろう」
 岐阜にある千代保稲荷神社のことである。

「行った行った。マリアが串カツが食べたいからって」
 裁紅谷姉妹は豚が食べられないので、無理を言って牛串カツを用意してもらった。
作者註:実際は牛串カツはありません。

「それでよっぽど満足したのか、お稲荷さんに油揚げを奉納せずに帰っただろう?」
 キツネマリアは弱々しい鳴き声をあげている。

「神のはしためにしては、はしたなかったね」
 キツネマリアがメシヤの頬をつねった。

「なら、話は早いのではありませんか? もう一度おちょぼさんに行ってみては?」
 マリアはレマにすり寄った。



 養老線に乗りコミュニティバスを使って目的地へ着くと、再度赤い鳥居をくぐった。

「メシヤ、イナリってなんなんだろうネ?」
 エリが不思議な音の響きに疑問を抱いた。

「トンデモだって一蹴されるんだけど、神の御子が磔刑に処せられたとき、十字架の上にI.N.R.Iって書かれてたんだよね。Ieseu Nazarenus Rex Indaeorumの略らしいんだけど」
これはスーパーミステリーマガジン、『モー。』でよく見られる内容であった。
レマは黙りこくって、考え込んでいる。決して笑えない風に彼女には聞こえた。

 マリアはそんな話は一切耳に入らず、元の姿に戻ることだけを考えている。口にはメシヤが購入した油揚げを咥え、頭には赤いきつねを載せている。

「緑のたぬきは信楽に行った時になるのかナ?」
 エリのボケにも応じず、マリアは5分も待っていられない心境だった。

 拝殿におあげと赤いきつねを奉納し、頭を垂れていると、火打ち石をカンカンと叩く音が聞こえた。

 キツネマリアの周りに白い煙が立ち籠める。


「キャッ!」
 マリアが悲鳴を上げた。

「メシヤさま、見ては駄目です!」
 メシヤの視界を両手で遮るレマ。

「マリア、早く服を着るんだヨ!」
 エリはマリアに向かって白装束を投げつけた。





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