第42話 レオンの黙示録

文字数 693文字

「エメラルド・タブレットと言うのは、攻略本とは趣きが違うのです」
「うん、僕もエンディングを見たいがためだけに、攻略本片手にゲームをするのは嫌だね」

「聖書を読んでいただくと分かると思いますが、ああいう聖典というものはマニュアル的にずばり書いてあるわけではなく、幾分ポエティックで暗示的なのです」
「言われてみればそうだね」
「自然科学の法則などとは違って、人生の指針、道徳などはどれが正しいのか迷われる方が 
多いのではないでしょうか」

「僕も聞いたことがあるなあ。数学の定理や物理の法則は普遍で誰が試しても同じだから、信じるも信じないもないよね。でも、『あの人の言うことは正しい』だとか『自分のやり方は間違っていない』あるいは『神様は絶対いるんだ』っていうようなことには、信じるって言葉を使うよね。でも根拠があるかって言ったら、無かったりする」
「さようです。そして、何かを信じて進むときに非常に多くの雑音が耳に入ってきます」
「そこで普通なら脱落してしまう」
 メシヤが不本意に同意する。

「エメラルド・タブレットには全宇宙の始まりから終わりまですべて記録されていると申し上げましたが、それは何も予定調和的にこの世が成り立っているということと同じではありません」
「よかった。ほっとしたよ」
「エメラルド・タブレットの記録にいつでもアクセスできるわけではありませんし、一字一 
句、懇切丁寧に解答が得られることもありません」

「信じる・信じない、の話が出ましたが、あなたはエメラルド・タブレットの御言葉(みことば)に毎回 試されることになるでしょう」
「うん、心得とくよ」
 深刻な話にもかかわらず、メシヤは微笑を浮かべた。



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