第67話 屋根裏の宇宙少年

文字数 902文字

 北伊勢高校には小規模のプラネタリウムがある。だが、天体観測などいまは流行らないのか、いつもガラガラだ。メシヤは屋根裏の宇宙少年なので、もちろん宇宙に夢中だ。メシヤに言わせると、宇宙が夢中とのことなのだが。
 夏休みにマリアを誘ってプラネタリウムを眺めている。

「あれがヒミコだよ」
「へえ、どこにあるの?」
「宇宙の最果て。地球から129億光年離れてるよ。約1225(がい)kmだね」
(がい)?」
「数字の単位だよ。(ちょう)の次が(けい)でしょ? さらにその次の単位が(がい)なんだよ」
「え~と・・・」
「1225のうしろに0が20個ついたkm数だね」
「気が遠くなる、というか、気が狂いそうな距離ね」

 あのマリアですらも、宇宙の広さにはバンザイだ。
「マリア」
「うん?」

「僕と一緒に、宇宙の果てまで付いてきてくれる?」
「!!」
(なによ、これって・・・プロポーズ!?)

「メシヤくん・・・? あたし、まだ心の準備が・・・」
 初めてくん呼びをしてしまうほど、あわてふためくマリア。

「アーッ! ここにいたーッ!」
 プラネタリウム内に侵入してくるエリとレマ。

「あらあら、お邪魔でしたかしら? マリアさま」
 顔は笑っているが、いつになくねっとりとした声を出すレマ。

「やあ、エリにレマ。ちょうどよかった」
「なんの相談してたノ?」
「うん、話すと長くなるんだけど―――」
 メシヤはマリアたちに地球の命運、そして、デスヘヴンのことを伝えた。


「そう。そういうことね」
 勘違いをしていたことを恥じるマリア。

「だけど、本当に正真正銘のアホね、あんたは。アホの斜め上を行ってるわ」
「君が笑ってくれるなら、僕はアホにでもなる」
 意に介さずニッコリしている、宇宙少年。

「さっきの返事、聞かせてくれる?」
 メシヤの飛び切りの笑顔には、力強い優しさがあった。
「いいわ。あたしもついてく」
 少しためらったあと、口を開くマリア。

「ワタシもワタシモー!」
「どこまでもお(とも)しますわ、メシヤさま」
 エリとレマもメシヤの傍を離れるという選択肢は無いようである。

「あたしからも聞かせてくれる?」
 プラネタリウムは北斗七星のひとつ、破軍(はぐん)(せい)を投影していた。



「あんたの行く先に、果てなんてあるの?」






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み