第92話 ウェニ・サンクテ・スピリツス(精霊よ、来たれ)
文字数 1,527文字
「ああ、またこれ!?」
マリアがPCルームで、自機の不具合にいらだっている。
「Windows、良かれと思ってすぐアップデートすると、ハマるよ」
メシヤが横から口を挟む。
「Windowsだけじゃないぜ。Macも毎回こうだ」
Mac信者のイエスも同調する。
「パソコンとかIT機器ってさ、確かに便利なんだけどこうしたマシントラブルが多過ぎじゃない?」
マリアはご立腹だ。
「ソニータイムなんてことがまことしやかに言われてたけど、定期的なOSのアップグレードやソフトの更新をしないと動かなくなるだなんて、なにをかいわんやだね」
この辺のことは小学校にあがる前からPCをいじっているメシヤに一家言がある。
「しかも向こうの言うがままにアップデートしてやってるのに、それで動かなくなるんだからな。マリア、これからは更新の評判をネット上でうかがってからアップデートしたほうがいいぞ」
教え諭すイエス。
「ええ、そうするわ」
パッチが出るまでマリアのPCは思うように動かせない状態である。
「たしかメシヤさまは、ご自分でOS作りをしているのではなかったでしょうか?」
一連のやりとりを見ていたレマが尋ねた。
「エ~! メシヤ、やるじゃン!」
エリが感嘆の声を上げる。
「え。そうなの、メシヤ?」
マリアも興味を持ったようだ。
「あれ、僕どこかで言ったことあったかなあ? でもさ、そんな大したものじゃないよ。本物のプログラマーから見たら基本設計がまるでデタラメだしさ」
謙遜なのかメシヤは控えめだ。
「お前はよく言ってたもんな。『プログラミング言語は、なんであんなに分かりにくいんだろう?』ってな。
「うん。だってさ、別に日本語が入っていたっていいわけじゃん? それだけだと動かしづらいから他の文字体系も使うけどさ。じゃないと、プログラミングってすごく楽しいのに、その入り口で多くの人が躊躇しちゃうよね。ほんと色んな才能を持ったひとたちがたくさんいるのに、この状況はもったいないかなって思うよ」
メシヤは滔滔 と語る。
「日本産のOSが世界を席巻できなかったのは、経済戦争や政府間の思惑が絡んでいるんだろうが、こいつのプログラミングは実に理にかなってるんだよ。アップグレード商法で荒稼ぎしようなんて魂胆は皆無だしな」
「プログラミングって超理詰めの作業だけど、僕のはグリム童話の『小人の靴屋』の要素を組み込んであるんだよ。主人の思いを汲み取って、先取りした未来を提供してくれるのさ」
メシヤはさらりとすごいことを言う。
「植物みたいなものかしら」
マリアがぽつりと言う。
「うん?」
聞き返すメシヤ。
「お花とかお野菜って、土を耕して種を植えて、お水をまいて肥料をあげたりまでは人間がするけど、成長自身はその植物ががんばって大きくなるわけでしょ?」
「うん、そうだね」
「で、メシヤのプログラムはある程度道筋を作ったら、他はPCが勝手にやってくれるのよね? 何か似てるなあって」
マリアが妙に感心する。
「AI、とは違うのでしょうか?」
レマが質問を挟む。
「AIと似ているようで違うかな。AIは人間がいままで苦労していた地味な作業を代わりにやってくれるっていう意味合いが強いけど、独自のアイデアを出すのは苦手だよね。さっきマリアが植物の譬 えを出してくれたけど、お膳立てをプログラミングで構築して、人間が活動しやすいように『小人の靴屋』がいろいろなアクションを起こすのさ。その状況を見て、人間がどんどん活発になる。だから、実作業はAIがやるんじゃなくて、結局は人間がすることになるんだけど、僕はそれでいいと思っている」
「メシヤ、恐ろしい子!」
背景が暗くなり、エリは白目になった。
「でも、まだまだ試作段階だよ」
マリアがPCルームで、自機の不具合にいらだっている。
「Windows、良かれと思ってすぐアップデートすると、ハマるよ」
メシヤが横から口を挟む。
「Windowsだけじゃないぜ。Macも毎回こうだ」
Mac信者のイエスも同調する。
「パソコンとかIT機器ってさ、確かに便利なんだけどこうしたマシントラブルが多過ぎじゃない?」
マリアはご立腹だ。
「ソニータイムなんてことがまことしやかに言われてたけど、定期的なOSのアップグレードやソフトの更新をしないと動かなくなるだなんて、なにをかいわんやだね」
この辺のことは小学校にあがる前からPCをいじっているメシヤに一家言がある。
「しかも向こうの言うがままにアップデートしてやってるのに、それで動かなくなるんだからな。マリア、これからは更新の評判をネット上でうかがってからアップデートしたほうがいいぞ」
教え諭すイエス。
「ええ、そうするわ」
パッチが出るまでマリアのPCは思うように動かせない状態である。
「たしかメシヤさまは、ご自分でOS作りをしているのではなかったでしょうか?」
一連のやりとりを見ていたレマが尋ねた。
「エ~! メシヤ、やるじゃン!」
エリが感嘆の声を上げる。
「え。そうなの、メシヤ?」
マリアも興味を持ったようだ。
「あれ、僕どこかで言ったことあったかなあ? でもさ、そんな大したものじゃないよ。本物のプログラマーから見たら基本設計がまるでデタラメだしさ」
謙遜なのかメシヤは控えめだ。
「お前はよく言ってたもんな。『プログラミング言語は、なんであんなに分かりにくいんだろう?』ってな。
「うん。だってさ、別に日本語が入っていたっていいわけじゃん? それだけだと動かしづらいから他の文字体系も使うけどさ。じゃないと、プログラミングってすごく楽しいのに、その入り口で多くの人が躊躇しちゃうよね。ほんと色んな才能を持ったひとたちがたくさんいるのに、この状況はもったいないかなって思うよ」
メシヤは
「日本産のOSが世界を席巻できなかったのは、経済戦争や政府間の思惑が絡んでいるんだろうが、こいつのプログラミングは実に理にかなってるんだよ。アップグレード商法で荒稼ぎしようなんて魂胆は皆無だしな」
「プログラミングって超理詰めの作業だけど、僕のはグリム童話の『小人の靴屋』の要素を組み込んであるんだよ。主人の思いを汲み取って、先取りした未来を提供してくれるのさ」
メシヤはさらりとすごいことを言う。
「植物みたいなものかしら」
マリアがぽつりと言う。
「うん?」
聞き返すメシヤ。
「お花とかお野菜って、土を耕して種を植えて、お水をまいて肥料をあげたりまでは人間がするけど、成長自身はその植物ががんばって大きくなるわけでしょ?」
「うん、そうだね」
「で、メシヤのプログラムはある程度道筋を作ったら、他はPCが勝手にやってくれるのよね? 何か似てるなあって」
マリアが妙に感心する。
「AI、とは違うのでしょうか?」
レマが質問を挟む。
「AIと似ているようで違うかな。AIは人間がいままで苦労していた地味な作業を代わりにやってくれるっていう意味合いが強いけど、独自のアイデアを出すのは苦手だよね。さっきマリアが植物の
「メシヤ、恐ろしい子!」
背景が暗くなり、エリは白目になった。
「でも、まだまだ試作段階だよ」