第4話 砂漠の国からはるばると

文字数 954文字

 四月から北伊勢市に移住してきた生徒が二人いる。新入生ばかりなので新たな気持なのは同じなのだが、純和風の1年G組の生徒たちとはルックスがまるで違う。
 裁紅谷(さばくたに)エリと裁紅谷レマ姉妹。日本と約9000キロ離れたイスラエルからやって来た。父親は日本人なのだが、母親は生粋のユダヤ人らしい。背は小柄で髪がライム色だ。

 「シャローム!」
 満面の笑みを浮かべてエリが教室に入ってきた。レマは蚊の泣くような声で「おはようございます」と続いた。

 メシヤはまずいと思ったのか(めし屋が不味かったら商売上がったりだが)、両手に持った剣の柄を隠した。
 「何を隠したのかナ~?」
 小悪魔とはエリのことを言うのだろう。メシヤはこのままやり過ごすのは無理だと感じた。

 「これさ」
 メシヤは観念してエリとレマに柄を見せた。

「!」

 無表情なレマの顔色が変わった。
「イエスさま、これはどちらで手に入れたのですか?」
 メシヤとエリの掛け合いをよそに、レマがイエスに尋ねる。

「ああ、これは北伊勢教会で見つけたんだよ」
 イエスは包み隠さず言った。

「レマちゃん、何か知ってるの?」
 マリアが話に加わった。
 マリアは神剣を壊してしまったエピソードを神父に正直に話したが、意外なことに、あっさり許してもらえた。しかも、神父はどこか嬉しそうだった。

「その柄に刻印されている文様なのですが、私達の祖国、イスラエルの国璽(こくじ)に――」
「酷似してるわネ」
 エリは言葉遊びが好きなようだ。

「柄は立派だけド、肝心の刀身が無いネ」
 エリがごもっともな感想を口にする。

「あれはマリアが・・・」
 口にして、しまったと身構えるメシヤ。
「何よ、あたしのせいだって言うの!?」
「・・・マリアが守護(まも)ってくれたお蔭で、僕たちも大事には至らなかったよ」

「べっ、別に私は何もしてないわよ。怪しいやつが来ないか見張ってはいたけどね」
 セリフの前半は照れていたが、後半はメシヤにあてこすった。

「しっかし、この有様じゃさすがに使いものにならないかなー。ダニエルさんなら何か知ってそうだけど」
 メシヤがつぶやくと、ダニエルという人名にレマが反応した。

「お姉さま、GIAも動き出した模様ですね」
 レマがエリにひそひそ声で話す。
「まア、ここは特別な土地柄だからネ」
 エリは達観したような目でそう言い放った。

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