第114話 ヌンク・ディミッティス

文字数 720文字

「こんなに雨が降るなんてね」
 窓の外をうらめしそうに眺めるマリア。

「マリアが暑さをなんとかして欲しいって言ったからじゃない?」
 メシヤが茶々を入れる。

「週間天気予報もずっと傘マークですわ」
 スマホをチェックするレマ。
 エリがのぞき込んで顔を(しか)める。

「ホントに参った。商売あがったりだぜ」
 十九川工務店にとっては、死活問題だ。

「各地で深刻な被害も出ています」
 日本はレマの第二の故郷だ。

「雨乞いってあるけド、晴れ乞いはないのかナ?」
 エリがなにやら思いついた。

「エリ、それだ!」
 メシヤが"正解"のジェスチャーをした。

「奈良県の生蓮寺(しょうれんじ)というお寺で、てるてる坊主を祀って晴れ乞いをしているそうですわ」
 レマがすぐ調べを付けた。

「へえ、妊娠祈願や安産祈願もしているのね」
 日本の出生数は減少傾向である。

「隣の県だし、奈良まで行くのもいいなあ」
 メシヤがワーゲンバスの手配をイエスに頼んだ。
新首都圏は、京都・奈良・滋賀・三重の四県にまたがった、畿央エリアである。

「柿がたべたいネ!」
 エリは日本の果物に目が無い。

「柿はまだ早いかなあ? フルーツ好きなら、クラレットポンチとかオススメだよ」
 メシヤは自分の好きなモノを言っているだけで、旅先にあるかは調べていない。

「まだまだバナナジュースも根強い人気ね」
 マリアの好物だが、バナナと柿では、合戦が始まりそうだ。

「奈良の建造物は、俺もまだまだ学ばなければいけないことだらけだ」
 イエスの目線は、食べ物より建築に向いている。

「私は大仏プリンをいただきたいですわ!」
 双子は嗜好も似ている。

「この雨が終わったら、めっきり秋っぽくなるんでしょうね」
 マリアが感傷にふける。短い夏であった。




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