第77話 ギブソンタックの女

文字数 1,022文字

「アーロンさま。デスヘヴンへの遠征のあいだ、ご心配をお掛けしました」
 裁紅谷レマは、リモートでアーロン・グッドシュミット以色列(イスラエル)首相と話している。

「よいよい。それよりもグランモナルク殿の様子はどうだ?」
「はい。いまは落ち着きを取り戻し、精力的に活動されています」
 レマはにこやかに返答する。

「ところでアーロンさま。奈保という男についてなのですが・・・」
「ふむ、Mr.ナボか」
 アーロンは奥歯に物が挟まっているかのようだ。

「あの男に関するデータ、なにひとつ信用に足るものがありません。普通すぎて、ということですが」



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 きょうは北伊勢高校一年生による、街の奉仕活動が行われていた。一年G組の生徒たちも駆り出されている。

 裁紅谷レマは草抜きの邪魔にならないように、長い髪をギブソンタックにまとめている。姉のエリはいつものピッグテールだ。

「メシヤ~、なんでワタシたちがこんなことしなきゃいけないノ~?」
 エリは不満たらたらだ。

「まあまあ。これもコツがあってさ。草刈り機なんて慣れてくるとゲーム感覚だよ、エリ」
 メシヤはいつになくさわやかだ。
「そうですわ、お姉さま。これも誰かがやらないといけないわけですから」
 レマも本心では気が進まないのだが、他ならぬメシヤのこと、調子を合わせる。

「精が出ますね、メシヤくん」
 ゴミ拾いトングで缶をつまみながら、レオンが話しかける。

 レマはやや警戒した目線をレオンにむけるが、彼は目を合わそうとしない。

「超古代はごみ問題をどうしていたんだろうね、レオンくん」
 アトランティス時代においては、プラスチックなど存在しなかったので、いまのように処理に困るということはありませんでした。日用雑貨では麻製品を使っていましたからね。

「それはいいね! リユースしやすいしさ! 片付けや掃除を怠ると病気にも繋がりかねないし」

「メシヤ~、ドブさらいもするのよ!」
 遠くでマリアが泥だらけになって叫んでいる。

「分かってるよ、いまやる」
 メシヤはショベルを持って汚泥をすくい取る。

「これじゃ水が溢れるわけだネ!」
 エリもレマも改心して、汗だくになって働いた。



 放課後、めし屋フジワラの菜園にて。
 以前、メシヤからもらったかぼちゃの種を、裁紅谷姉妹は植えておいたのだが、なかなか花が咲かなかった。きょう畑を覗くと、労苦をねぎらうように、雌花の実がぷっくりと膨れあがっていた。













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