第90話 球春到来

文字数 948文字

「いやあ、始まりましたね十九川さん」
「はい、去年はコロナ禍だっただけに、待ちに待った開幕です」
 プロ野球実況と解説役を務めるメシヤとイエス。

「セ・リーグはもう9年も日本一から遠のいています。この状況をどう思われますか」
「はい、親会社の資金力のことを言われることがありますが、それだけが戦力の決定的差では無いということを、我々は何度も見てきたハズです」

「十九川さん、それなんですがね。あの栄耀栄華を極めたジャイアンツですら、ホークスには歯が立ちませんでした。そのジャイアンツは、セ・リーグではダントツの強さだったにもかかわらずです」
 実況・藤原は熱がこもる。

「組織の強さというものは、好成績を残した選手を集めればそれで良しという単純なものではありません。プロ野球に入ってくる選手たちは、それだけで十分素質には恵まれています。他球団の選手は当然のことながら、いまの状況を面白く思っていないことでしょう」
 解説・十九川もこの点には並々ならぬ思いがある。

「環境の点はどうでしょう?」
「都会の設備が調った学校や球団が有利かと思いきや、そんなことは無いですよね。優れた選手は日本全国津々浦々から輩出されています」

「う~む、セ・リーグが付け入る隙があるとしたら、どんなところでしょうか?」
 藤原は色んな角度からボールを投げかける。
「勝利の直前が一番危ないとも言います。いまホークスは勝って当たり前の状況です。気の緩みがちょっとでも見えたら、そこは一気呵成に攻めるべきでしょう」

「十九川さん、私は思うんですがね。野球選手も会社員も、結局は人だと思うんですよね。AIがどうだ、ネットがどうだと言っても、それを設計して動かしているのは、これもまた人な訳ですよね」
藤原は持論を述べる。
「はい、そうですね」

「トップアスリートのインタビューを見ていても、必ずといっていいほど、恩師とのエピソードが出てきます。『あの人の一言で変われた』と言うような」
「まったく同意見です。マシーンが野球をしている訳ではありませんからね。反骨心が勝利への原動力となっていることもありますし」

「はい、そしてね、私はこうも思うんです」
 藤原は静かに口を開く
「ほう、なんでしょう?」

「『One play changes the world』ってね」






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