第178話 リバースエンジニアリング
文字数 1,076文字
「また派手に散らかしてるわね」
メシヤが家電を分解している。
「うん。ちょっと修理するだけの予定だったんだけど、箱を開けたら仕組みが気になってさ」
昔はこういう機械好きの少年がそこかしこにいた。
「でもさ。いまは電子制御ばかりで、そこの心臓部が壊れたら直しようがないんじゃない?」
車のレストアは醍醐味だが、この問題が障害となっている。EV車に移行していったら、この大人の趣味は絶滅するのだろうか。
「半導体を自前で作るツワモノもいるみたいだよ」
いまこれが不足して、世界が大きな危機に直面している。
「ま、いいことなんじゃない? そうやってモノの仕組みを知ろうとするのは」
できた母のような発言である。
「なんて言うのかな。澄ました顔してるけど、その中にとんでもない機構を隠し持ってるんじゃないかって考えると、箱を開けてみたくなるのさ」
取扱説明書には、分解しないことと注意書きされている場合があるが、リバースエンジニアリング自体は違法というわけでは無い。その仕様のままに製造・販売することが禁じられている。
「あたしはあんたの頭ん中を見てみたいわよ」
メシヤは両手で頭を押さえた。
”脳”の漢字も、箱の中に未知なるXが隠されているように見えなくも無い。
「いままでいろんなものをバラして来たけど、表面はキラキラしてるのに裏側は粗悪だったりすると、社会の闇を見た心持ちがするよ」
見えないところのおしゃれも重要である。
「食べ物も何が使われてるかパッと見じゃ分からないわね」
同じ品目で比べた場合、少ない材料で作られているものが、味も良いように観察される。
「料理のレシピって当たり前だけど作り始めから出来上がりまで順を追って書かれてるよね。なにかの製作動画もそういう構成だけどさ、出来上がりから逆戻しに見ていくのもひとつの方法かもね」
料理も達人の領域になると、仕上がりのイメージがまずあって、その状態に持って行くのに色んなルートを辿って到達出来るようになる。積み上げて作っていく感覚とは異なる。
スポーツでも逆再生でVを見て、何かヒントが無いか探ることは普通に行われている。余談だが、逆さ言葉の練習は、脳トレに効果絶大である。
そうこう言っている間に掃除ロボットのオーバーホールが終わり、マシンはふたたび息を吹き返した。
「これさ、臥龍剣とか鳳雛剣でも出来るのかしら?」
物騒なことを言うマリア。
「いやあ、あれってネジ穴も無ければ繋ぎ目も見当たらないんだよね。どういうメカニズムなのか、さっぱり分からないんだ」
あるじの発言が聞こえたのか、ふたつの聖剣は妖しく光った。
メシヤが家電を分解している。
「うん。ちょっと修理するだけの予定だったんだけど、箱を開けたら仕組みが気になってさ」
昔はこういう機械好きの少年がそこかしこにいた。
「でもさ。いまは電子制御ばかりで、そこの心臓部が壊れたら直しようがないんじゃない?」
車のレストアは醍醐味だが、この問題が障害となっている。EV車に移行していったら、この大人の趣味は絶滅するのだろうか。
「半導体を自前で作るツワモノもいるみたいだよ」
いまこれが不足して、世界が大きな危機に直面している。
「ま、いいことなんじゃない? そうやってモノの仕組みを知ろうとするのは」
できた母のような発言である。
「なんて言うのかな。澄ました顔してるけど、その中にとんでもない機構を隠し持ってるんじゃないかって考えると、箱を開けてみたくなるのさ」
取扱説明書には、分解しないことと注意書きされている場合があるが、リバースエンジニアリング自体は違法というわけでは無い。その仕様のままに製造・販売することが禁じられている。
「あたしはあんたの頭ん中を見てみたいわよ」
メシヤは両手で頭を押さえた。
”脳”の漢字も、箱の中に未知なるXが隠されているように見えなくも無い。
「いままでいろんなものをバラして来たけど、表面はキラキラしてるのに裏側は粗悪だったりすると、社会の闇を見た心持ちがするよ」
見えないところのおしゃれも重要である。
「食べ物も何が使われてるかパッと見じゃ分からないわね」
同じ品目で比べた場合、少ない材料で作られているものが、味も良いように観察される。
「料理のレシピって当たり前だけど作り始めから出来上がりまで順を追って書かれてるよね。なにかの製作動画もそういう構成だけどさ、出来上がりから逆戻しに見ていくのもひとつの方法かもね」
料理も達人の領域になると、仕上がりのイメージがまずあって、その状態に持って行くのに色んなルートを辿って到達出来るようになる。積み上げて作っていく感覚とは異なる。
スポーツでも逆再生でVを見て、何かヒントが無いか探ることは普通に行われている。余談だが、逆さ言葉の練習は、脳トレに効果絶大である。
そうこう言っている間に掃除ロボットのオーバーホールが終わり、マシンはふたたび息を吹き返した。
「これさ、臥龍剣とか鳳雛剣でも出来るのかしら?」
物騒なことを言うマリア。
「いやあ、あれってネジ穴も無ければ繋ぎ目も見当たらないんだよね。どういうメカニズムなのか、さっぱり分からないんだ」
あるじの発言が聞こえたのか、ふたつの聖剣は妖しく光った。