第176話 どてらい奴

文字数 898文字

「受験シーズン真っ盛りね」
 教室に残って問題集を開いている先輩たちが、マリアの目に留まった。

「まだ二年後ですが、マリアさま、進路はどうされるのですか?」
 レマはマリアの行く末を知っていて、白々しい質問をした。

「大学に行くつもりはないんだけど、手に職を付けたいわね」
 マリアは5教科よりも音楽や美術、体育が得意である。

「去年、高校受験をしたばっかりだけど、現代は誘惑が多くて駄目だね」
 ゲームに動画、SNSに興じていると、みるみる時間を奪われていく。

「いや、あんたはどの時代に生まれても他ごとやってるわよ」
 まるで長年付き添った連れ合いのようである。

「メシヤの家なラ、夜食は困らないネ!」
 実家が飲食店とは、受験生にとって夢のような環境である。

「はは。食べ過ぎて眠くならないように気をつけないとね」
 睡眠薬の服用をやめたメシヤは、眠気に悩まされることは無くなった。

「いまでこそ各部屋にエアコン付いてるような家が増えたけど、まだまだ子供部屋には冷暖房器具が無かったりするわよね」
 子供部屋を作らず、居間に学習スペースを設けた間取りも増えてきた。

「この時期は堪えますね。寒さで勉強どころではないですわ」
 レマが自分を抱きしめる仕草をした。

「そういう部屋にはコタツがあったりするから、あれも風物詩だけどね」
 コタツ好きが昂じて、まだ秋も始まらないうちにコタツを出す家庭も存在する。

「部屋着もさ、ラフであったかい格好ってなると限られてくるわよね。外で着るようなコートを羽織るわけにもいかないし」
 なぜか家の中に入ってもコートを脱ぎたがらない人をよく見掛ける。

「それならドテラだ!」
 作務衣がブームになったことがあるが、ドテラが流行ってもおかしくなさそうだ。

「ドテラ?」
 エリがこめかみを人差し指で押さえた。

「うん。綿100%でさ。布団を羽織ってる感じなんだよ。コタツムリって言葉があるけど、あの安心感がある」
 ただ、あまり店頭でも見掛けないアイテムとなった。

「なんか、あれ着ると一気に昭和のコントっぽくなるのよね。あったかくてあたしも好きなんだけど」
 どうせならこの三人娘には、打掛を着てもらいたいものだ。





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