第163話 雪の降る街を

文字数 787文字

「北伊勢はいつからこんな豪雪地帯になったのかしら!」
 マリアが聖ヨハネ北伊勢教会の雪かきに精を出している。

「マリアさま。意外と思われるかも知れませんが、イスラエルにも雪が降るんですよ」
 砂漠の国のイメージのイスラエルだが、清浄な雪が降る。

「マリア、ごくろうさんだね」
 メシヤが自分の店の雪かきをすでに終え、駆けつけた。

「おう、ここも結構積もったんだな」
 実家の商売柄、イエスにとって雪は天敵だ。

「メシヤ、それいいじゃン!」
 メシヤが手に持っていたのは、スノーダンプであった。スコップより疲れにくく、作業がはかどる。

「でも、これひとつしか無いんだよなあ」
 メシヤはスノーダンプをエリに託すと、雪玉を作ってコロコロと転がし始めた。

「またいつものスノーマンね」
 マリアの言うとおり、雪だるまを作る腹づもりであった。

「道具が無いときは、効果的かもな。ある程度まとまった量の雪をそうやってどかしておけば、後の作業が楽だ」
 メシヤはすいすい雪の玉を大きくしていく。その軌道の残り雪を、エリがダンプですくいとっていく。

 玉が大きくなるほど労力も増大するので、最後の方はメシヤとエリが並んで大玉を転がした。その次は、半分くらいのサイズの中玉を乗っけて、仕上げ前の工程が終わった。

「あ、メシヤさま。わたくしいいものを持っていますわ」
 編み物が趣味のレマは、手芸に使う布をいくつか持ち合わせていた。ハットをかぶせ、マフラーを巻き、ボタンをほどこした。どこか英国紳士風である。

「英国紳士にも掃除くらいはさせないとな」
 イエスが持っていた箒を、右側面へ斜めに差した。

「お、似合う似合う! 夏の大雨の時にエリが晴れ乞いって話をしてたけど、雪だるまもなにかおまじないになってくれるといいな!」
 迷信と言ってしまえばそれまでだが、雪だるまにホウキを持たせれば、あやしい雪雲をハラってくれるのかも知れない。







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