第120話 レフティを待ちながら

文字数 1,151文字

「あんた器用よね~」
 メシヤの厨房をのぞいてマリアが感心する。

「ええ、メシヤさまは両手が同じ様に使えていますわ」
 右利きのレマが手を開いて閉じる仕草をする。

「ワタシは左利きだけド、メシヤのように右も左もってわけにはいかないネ」
 双子の姉妹でも利き手が分かれる。

「この中だとイエスとマリア、レマが右利きだね。ああ、あと確かレオン君は左利きだったか」
 しゃべりながらもよく手が動く料理長。

「へ~、奈保くんも」
 マリアはお腹が空き気味で上の空になっていた。

「はいよ、手羽中おまちどう!」
 メシヤは、塩コショウをまぶして一晩醤油漬けにした手羽中を揚げ終えた。

「これだこれだ、最近の甘辛の鶏はどうも口に合わん」
 イエスがひょいとつまんだ。

「まあ! これはご飯がススミますわ!」
 レマも気に入ったようだ。

「飲まないけど、お酒のつまみに合いそうね~」
 見た目で誤解されるが、マリアは酒が嫌いだ。

「メシヤ、いい旦那さんになれるヨ!」
 エリもご満悦だ。

 テーブルの左奥にイエス、右奥にマリア
 左手前にエリ、右手前にレマが腰掛けている。

 利き手がぶつからないような配置だ。

「さっきの話だけど、あんたペンやお箸は右を使ってるわよね」
 学校でマリアはメシヤと隣の席なので、よく気づく。

「うん、別に左手でも書けるし箸も持てるんだけど、なんか悪目立ちするんだよね。だから、公衆の面前では伝統的に右手を使うようにしているよ」
 いまは昔ほど右手への矯正も少なくなったので、左手を使っている人をよく見かけるようになった。

「メシヤは左手を使うと女の子っぽくなるからネ!」
 メシヤは野球でもそうだが、左手だと軟投派になる。

「メシヤの場合は理想的だよな。特別に左利き製品を買い揃える必要が無い」
 イエスも利き手でないほうを使えるようになりたい願望はある。

「左利き用のマウスとか売ってるけど、右手でマウスを使って、左手でキーを叩くような使い方ならノーマル装備で問題ないかな。それに左利き用はデザインが少ないしさ」
 メシヤは右手で鉛筆を持って左手の消しゴムで間違いを修正する。

「野球も左バッターが増えた印象だわ」
 マリアは熱狂的な中日ファンである。

「あれは行き過ぎてる感があるな。一般人でも奇をてらって左利きになろうとする人間が多い」
 明らかに右利きなのにもかかわらず、話題作りのために始球式で左投げをする有名人も少なくない。

「考えてみれば片方だけ使う作業のほうが少ないわけですから、無理に利き手を変更したりせず、利き手でないほうの手は補助として意識すれば上達も速そうですわ」
 これがものづくりの面白いところで、補助と思われている側の作業のほうが、格段に重要だったりする。

 メシヤが臥龍剣と鳳雛剣を二刀流でなんなく使いこなせたのも、必定であった。







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