第55話 宇宙が夢中

文字数 849文字

「メシヤくんにイエスくん。東西オーストラリア上陸ルート、それから南極大陸到達ルート。 
これら以外はすでに話が進んでいるんだ。ロックフォーゲル大統領の指揮のもとにね」
「それは話が速いですね」
 イエスは(まなじり)に力がこもった。

「南極へのルートはチリからが一番近いんだが、オーストラリア、アフリカ大陸からも結ぼ 
うと思っている。これが最大の難所だな。まだまだ障壁がある」
「距離もそうですけど、涙も凍る南極大陸ですからね」
 メシヤは、バナナで釘が打てます的な寒い地域特有のコメントをした。
「日本の受け持ちは日韓トンネル。そして、ロシアと繋がる宗谷トンネル、タタールトンネ 
ルだ」

「僕が子供の頃に読んだ科学雑誌に載っていました。22世紀の未来はこうなるって。その世界では鷹山さんの構想通り、世界の六大陸が繋がっていました」
 メシヤは思い出を反芻する。
「おいおい、『モー。』は科学雑誌なのか?」
 イエスがツッコミを入れる。
「オカルトは超科学だよ」
「はは。私の子供の頃に読んだ少年誌にも、近未来特集が毎号のように載っていたよ。私の 
世界改造計画もそこが原点だな」

「鷹山さんが中学二年生の頃に、アポロ11号が月面着陸したんでしたね」
 イエスは人物年表を事細かに覚えている。
「そう。私が理系志望に決めたのも、その出来事が大きい」
「鷹山さんの経歴はまさにエリート街道ですものね」
「いやいや、夢破れてるよ。JAXAには入れなかったからね」
「すごいですね! パイロット試験受けたんですね!」
 メシヤが目を爛々と輝かせて尋ねる。

「洒落じゃないが、宇宙に夢中だったからね。メシヤくんもそうだろ?」
「僕の場合は、『宇宙に夢中』じゃなくて『宇宙が夢中』でしたね」
「同じことだろ」
 鷹山に自分のことは聞かれなかったのを少し寂しく思ったイエスが、メシヤに文法の違いを確認する。

「言い換えるなら、『ONE FOR ALL, ALL FOR ONE』かな」
 ?マークを浮かべる鷹山とイエス。
「宇宙中がなにかに夢中になってる状態、ってことだよ」



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