第141話 Wealth of Nations

文字数 1,072文字

「ねえ、メシヤ。たしか私たちが高校一年生の時に総選挙が行われたはずだけど、同じ年にまた総選挙があるのはいったいどういうことかしら?」

「こまかいことは言いっこなしだよ、マリア。別の並行世界からの事象ポテンシャルの流入があったんだよ。ノイマン境界条件を超えてね」

「このあいだ臥龍剣の修復をしたことも関係してそうね」

「うん。スターゲイトを開く鍵だからね、この二刀は」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「鷹山さんも大忙しだな」
 一週間後の総選挙を控え、舌戦が繰り広げられている。

「こんな時に政権を担うのも酷な話よね」
 プロミネンス禍、先行きの見えない日本経済、少子高齢化、格差の拡大、環境汚染、と問題は山積みである。

「こんにちは」
 スラリとした美しい髪の女性がのれんをくぐってきた。

「あ、オブライエンさん!」
 メシヤの良き理解者のご登場だ。

 マナがすぐグラスの水を運んできた。まだ夕食の時間には早い。メシヤはスイーツを勧めた。

「あまりスイーツでは使われない食材なんですけど、日本の柿を使ったショートケーキです」

「あら、いいじゃない! そちらをいただくわ」
 オブライエン博士のクエン酸回路も、フルスロットルだ。

「オブライエン博士ほどのお方が、こんなところでゆっくりされていても大丈夫なんですか?」
 マリアが軽く噛みついた。

「ええ。私のメイン研究テーマはこの日本にありますから」
 オブライエンにとって実はマリアも重要人物なのであるが、その話はまた別の機会に。

「博士は日本の政治に関して、なにかコメントすることはありますか?」
 イエスも物怖じせず質問する。

「そうねえ」
目で少し待ってねと合図をしてから、スプーンを一口運んだ。ジェニーの口に合ったのか、笑顔がこぼれた。

「新しい世代が出て来て欲しいってことかしら。ボウスハイトは特別にしても、24歳で英国首相になったウイリアム・ピットという人がいたわ。日本からもそういう人物があらわれても全然おかしくないと思う。私が言えるのは、若者よ、大志をいだけ! ってことかしらね」
イエスは、鷹山さんがなにか吹き込んだのではないかと勘ぐった。だがオブライエン博士と心情は同じだった。

「イエス、オブライエンさんは中立派なんだから、政治的な話は困ると思うよ」
「あら、メシヤくん。私はけっこう贔屓をするほうだと思うわ。日本贔屓でもあるのよ」
オブライエンの目の掛けるポイントは、それをすることで全体が良くなるか、である。

イエスはメシヤを眺めて、グランモナルクとしての自覚があるのか、もどかしい気持ちになった。






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み