第59話 メシヤの受難

文字数 686文字

「先生。メシヤくん、まだ眠らずにずっと起きています」
 児童精神科の病棟で、メシヤ担当の看護師が主治医に訴えかけている。
「過集中で神経が興奮しているな」
「このままではメシヤくんの体が壊れてしまいます」
「分かった。私が直接話をしよう」
「お願いします」


「メシヤくん」
「はい、呉塀(くれぺ)先生」
「眠れないのかい?」
「うん、寝るのがもったいなくて。やりたいこといっぱいあるから」
「このあいだ処方したお薬はどうだったかな?」
「先生。あれを飲むと、すごく気分が悪くなるんです。だから・・・飲んでません」
「それはいけないな。メシヤくん。無理にでも寝ないと、大きな病気になってしまうかも知 
れないよ」

「人間は8時間も9時間も寝なくて大丈夫ですよ。
エジソンは『死んでからたっぷり眠ればいい』と言っていましたし」
 困惑の表情を浮かべる呉塀。
「子供のうちはたっぷり寝ないと、身長が止まってしまうよ。それでもいいのかい?」
「それは・・・嫌ですけど・・・、でも眠くならないから・・・」

「なら、これを飲むんだ」
 呉塀は睡眠薬二錠を右掌に乗せ、メシヤに突き出した。
「嫌だ!」
「メシヤくん、おとなしくしなさい!」
「それを飲むくらいなら、僕はここから出て行きます! こんなとこ、もういたくないんだ!」

「駄目だ。いまの状態のキミを出すわけにはいかない」
 本田が後ろに立っていた屈強な躯体の看護師に小声で話しかける。
「あまり気は進まないが、強めの鎮静剤を打っておこう」
 ものの数秒で5~6人の男たちがメシヤの病室に詰めかけた。暴れるメシヤを押さえつける無慈悲な男たち。子供にも容赦は無い。為す術も無くメシヤは制圧された。




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