第68話 昼間のメシヤ

文字数 1,484文字

「おー、見込みあるなボウズ!」
 高い足場の上をひょいひょいと歩くメシヤ。大工の棟梁が日焼けした顔をニッカリさせる。建て方の日は、労働災害が一番多い。足場がまだ完全に組まれていない状態で梁や合板の上に立たなくてはいけないからだ。一歩間違えれば即、あの世行きだ。

「メシヤさま、大丈夫でしょうか?」
 レマが心配そうに見守る。

「大丈夫よ。馬鹿と煙は高いところに登るって言うじゃない」
 マリアがフォローしているのかけなしているのか分からない発言をした。

「でモ、働いてる男の人ってかっこいいネ!」
「そうですわね。昼間のメシヤさまはちょっと違いますわ」

 ここは、北伊勢市内の西部、鈴鹿山脈ふもとの山間(やまあい)の地域だ。メシヤの設計した、ワシリイ宇宙センター日本基地の建設現場である。宇宙センターの建設と銘打っているのに、鉄骨造でもRCでもなく木造とは驚かれるかも知れない。

 だが、超古代の天翔ける宇宙船(そらふね)は木造だったことが分かっている。宇宙船も無機的な鉄の塊では無く、ひとつの生命体だったのだ。
 現場で行わなければいけない加工作業は、極力減らすように設計されていた。細かいパーツを数十集めた大パーツをあらかじめセットしておき、それを現場で組み立てるのだ。これはナゴブロックと同じ原理だ。
 
「オーライ、オーライ」
 クレーンのオペレーターに、左手を小刻みに上下させて合図するイエス。大パーツを着床させたあと、メシヤがスリングベルトをほどいた。自分がナゴブロックで作成した模型とほぼ同じ構成なので、メシヤは要領よく大パーツを組み立てていった。金物の接合はイエスが施している。

 子供のなりたい職業にIT関係の職種が占める昨今だが、暮らしが便利になる一方でなにをするにつけてもめんどくさがる傾向が人々の間に生まれ、生活能力に衰えが見え始めていた。メシヤはこのことに危機感を覚え、自分だけでも手を動かすことは続けていこうと実践していた。

「わー、お兄ちゃんカッコイイー!」
 近所の子供たちが集まってメシヤたちを見上げていた。それに気づいたメシヤが軽く手を振った。後日談だが、翌年調査した【子供のなりたい職業アンケート】では、一位が大工さんで、二位が自動車エンジニアに変わっていた。

 二日建ての日程で行われ、順調に各塔が組み上げられていった。残りは真ん中の主聖堂である。メシヤたちは三時の休憩をしていた。
 
「マナ、缶コーヒー10本とぱりんこを頼む」
「は~い」
 マナが持ち構えた聖杯を差し出すと、注文された品が次々と飛び出した。
 
「チートなんてもんじゃないわね」
 これまでにもこの光景を目撃してきたマリアが感想を漏らす。缶コーヒーは特に指定していなかったので、各メーカーの銘柄が無糖・微糖問わず供出された。
「あたしはカフェオレ~」
 見たまんまと言うべきか、エリは甘党だった。

 メシヤがアイスコーヒーを飲みつつぱりんこを口にしているのを目につけ、マリアが口を挟んできた。

「あんた、ぱりんことコーヒーなんてよく一緒に飲み食いできるわね」
「何言ってるのさ。工事現場では昔からコーヒーとぱりんこは二つで一つなんだよ。コーヒーの甘みで疲れた脳をすっきりさせて、汗で失われた塩分をぱりんこで補給するんだよ。理にかなってるでしょ?」

「分からなくもないけど、口の中で混ざったら違和感ありありじゃない。あんた昔からそうよね。おにぎり片手にコーラ飲んだりさ。よくそれで料理屋さんやってるわね」

「それを言うならマリアだって、ケーキと一緒におまんじゅうを食べたりするじゃないか」
 反論するメシヤ。

「あれは甘いもの同士だからいいのよ!」




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