第158話 燃えよ、剣

文字数 1,040文字

「ここのところ地震が続くわね」
 震災の傷跡はいまだに癒えない。

「富士山が噴火したら、なんて心配してる人間もいるな」
 いつか来るぞ来るぞと言われているが、まだふみとどまっている。

「関市のときよりもさらに山奥ですわね」
 メシヤの身を護る聖剣のこととなれば、裁紅谷姉妹が付いていかない訳には行かない。

「メシヤ、鳳雛剣の様子はどウ?」
 エリが案じる。

「うん、ヘブライ文字で火力のゲージが表示されてたんだけど、固まって動かないんだよね」
 この短い(つか)にどのような仕掛けで炎が吸い込まれるのか、オブライエン博士なら知っているかもしれない。

「ところでさ~」
 マリアが両腕を頭の後ろにして組んだ。

「メシヤのこの聖剣の設定って、あの有名作品もやってたわね」
 マリアがつい先日見たテレビアニメを思い出した。

「でモ、あれはまったく同じ設定じゃないヨ。使い方は確かに似てる部分もあるけド」
 メシヤの聖剣からスターゲイトを生み出し、129億光年離れたデス・ヘヴンへ行ったこともある。

「小説や漫画がアニメ化・実写化した時に、原作をだいぶアレンジする場合もありますね」
 あまり人気の芳しくなかった紙媒体の作品が、映像化して爆発的な人気を獲得することはよくある。

「メシヤと一緒に北伊勢教会へ聖剣を取りに行ってから、時間の感覚がおかしいんだよな」
 イエスがこういうのも無理はない。メシヤたちは高校一年生のままだが、リアル世界では四年の歳月が流れている。

「作者がサザエさん方式にしたからじゃないかな」
 登場キャラは一切年をとらず、単発エピソードを延々と続けるスタイルだ。

「で、大丈夫なの? 噴火なんてしてないし、されたら困るわけだけど」
 祭り好きのマリアも、にっこり微笑んで危険の中に飛び込んでいくほどの性格ではない。

「マリアさま。ここまで来たらもう引き返せないですわ」
 もうメシヤたちは、標高2500メートルの高みにまで、息急いている。

「翠ヶ池、カ。水が溜まってるヨ、メシヤ」

 メシヤはためらうことなく、左腰の臥龍剣を右手で抜いた。瞬時に左手に持ち替え、上段の構えで大きく息を吸うと、みるみる火口湖の水が欛に吸収されていった。湖底が恥ずかしそうに顔を出し、あわてんぼうの水蒸気がこれみよがしに立ち籠めた。

「いまだ、メシヤ!」
 イエスがグリーンフラッグを振った。

 メシヤは右腰の鳳雛剣を左手で抜くと、火口めがけて突き刺した。

 地響きのような轟音が聞こえたかと思うと、その音が徐々に巨大な鳳凰の鳴き声へと変わっていった。





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