第88話 太陽はひとりぼっち

文字数 1,172文字

 メシヤたちはエジプトのアレクサンドリア図書館に来ていた。
メシヤは学校の勉強は苦手なのだが、本はよく読むほうである。図書館に来ると、苦しかった小学生時代を思い出す。

 一般的に、耳から聞くのが得意な会話能力が高いタイプと、文字を読むのが得意な視覚優位タイプとに分かれるようである。

 会話や授業中に意味の分からなかった言葉が引っかかってしまい、そこを気にしているあいだに話が進み、混乱するということは、わりかしよく起こる。メシヤもこれのせいで授業中は気が散ってしまうのだが、じっくり自分のペースで読める本は性に合っているようだ。

「すごいよね、800万冊だってさ!」
 メシヤが歓喜の声をあげる。
「ほとんどは地下の閉架ですが、開架だけでも壮大な規模ですね」
 レマも本好きなだけに詳しい。

「でも外国の本ばっかりなんでしょ?」
 マリアが妥当な質問をする。

「ところが、です。翻訳されていない書籍でも、わずかな手数料を支払えばデータでガイドブックを取得できます。印刷がよければそちらも入手できます」
本にはうるさいレオンがしゃしゃり出る。

「試し読みして欲しくなったら、購入も出来るらしいな」
 イエスも世情に通じている。

「わたしは画集や動画がいいナ~」
 文字を読むのが苦手なエリは、物欲しそうにする。

「一生かかっても見ることの出来ないデータ量が用意されてるよ、エリ」
 メシヤの言葉に笑みがこぼれるエリ。

「街の本屋さんがどんどん店仕舞いしてるけど、電子書籍じゃだめなのかしら?」
 そこそこ本を読むマリアだが、長年の論争を蒸し返す。

「これは決着がつかないテーマだと思うよ。たとえばコンサートに行ったことがある人は、プロの歌の上手さに相当びっくりした経験があると思うけど、CDやネット動画ではその臨場感はとうてい及ばないよね」
 メシヤが持論をぶつ。
「でも、本の場合は同じ内容だよね? 違う言葉に入れ替わってるわけじゃないし」
 マリアも引き下がらない。

「そこにあるってことが重要なのさ。電子書籍はチェックしたらもうそれっきり。でも紙の本は棚にあるかぎり、静かに主張してくるんだよ。それで気になって読み返すと、困っていたことのヒントが見つかったりする」

「そんなもんかしら」

「アナログ・デジタル云々の前に、技術的に画面の小ささの制約はまだまだあると思いますね」
レオンが話を転換する。
「そう、スマホの地図は画面が小さすぎるから、今いるところと目的地の位置関係が把握しにくい。広域で見たら、道路や地名なんか消えてしまうしな」
イエスが話に乗っかる。
「そうカ! それでわたしはいつまでたっても道を覚えられないんだネ!」
 エリが納得する。

「建設業界でもCADを使って設計するのは楽になったが、軽率な見落としも増えたし、ありきたりなデザインばかりになってしまった。こういうのも功罪だな」






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