第50話 天国と地獄

文字数 1,050文字

 マリアは聖ヨハネ北伊勢教会隣りにある、女子修道院に寝泊まりしている。自室にはミニチュアを作成できるようなスペースが無いので、教会内の一室でナゴブロックの作成に取り掛かっている。
 神父に技術課題のことを話したら、喜んでOKをもらえた。2000年前に降臨した神の子は、大工であった。よく働き、モノを作り出すことは、神の御心(みこころ)にかなっているのだろう。
 
「熱心ですね、マリア」
「あたし、こういうのは性に合ってるっていうか、昔から好きなんです」
「あなたがここへ来たのは、12の時でしたね。その時から人一倍好奇心が旺盛でした」
「手もつけられなかったですけどね」
「マリア。あなたはここへ来て変わったというよりも、メシヤくんとの出会いが大きかった 
のだと思いますよ。学校から帰ると、よく彼の話をしていましたし」
「神父様にはかなわないですね。でも、絶対あいつの前では、そのことを話さないでください 
ね」

「マリア。あなたの境遇を思えば、ああして道をそれてしまっていたことは、いたしかたの 
無いことです。あなたは十分苦しみました。そしてその罪も償っています」
「うっ、うっ・・・」
 マリアの背中に手をやる神父。涙ながらマリアはなんとか声を振り絞った。

「どうして人は、生まれや育った環境の違いで、あそこまで他人を憎めるのでしょうか?」
「マリア、もうそこまでにしておきなさい」
「いいえ! 私の人生は地獄そのものでした! ひょっとしたら、地獄のほうがまだマシだったかも知れません!」
 黙ってマリアを見据える神父。

「私の家のありかが分かると、それまで親しくしていた友達が急に冷たくなりました。マリ 
アちゃん、ゴメンって。何度聞かされたか分かりません」
「マリア・・・」
「私は荒れに荒れました。家が貧しかったので、汚い大人たちを相手に、生活費を稼がざる 
を得ませんでした」
「マリア、それは言葉が過ぎますよ」
「ごめんなさい。神父様にはとても感謝しています。神父様は私の身の上事情など、一切気 
にせず、受け入れてくれましたから」

「住む場所が変わって、新しい生徒たちと過ごせたのは、マリアには幸運でしたね」
「はい。メシヤもイエスくんも、とても私に優しくしてくれました」
 作成中のミニチュアに目を落とす神父。マリアも少し落ち着いたようだ。

「マリア。夢の家ということですが、伴侶はもう決まっているのですか?」
「もう! 神父様って、けっこう意地悪ですね!」

 神父の許しを得たものの、修道院に戻らねばならず、マリアは夜9時には自室へと帰り、消灯した。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み