第185話 ソーイング娘。

文字数 1,165文字

「あれ、無い!」
 メシヤがあわてている。

「なにか失くしたの?」
 マリアがメシヤの動揺に気付いた。

「メシヤさま、ひょっとしてこれですか?」
 レマがメシヤの手帳を拾って差し出した。

「ああ、それそれ! 良かった!」
 メシヤは手帳を肌身離さず持ち歩いている。クラウド上に保存すれば良いではないかとおっしゃられるかも知れないが、メシヤはクラウド上に残して良いものと残したくないものとを、キッチリ分けている。

「試してみればすぐ分かるが、スマホだけでスケジュール管理をすると、いろいろ煩わしいことも出て来るんだよな」
 イエスが言いたいことはこうだ。予定の日時を相手と決めるときに、カレンダーで空いている日にちと時間帯を見ながら話を進めたいところだが、これがスマホ単体だけだと、間違いの原因になる。聞いてすぐ書き込みをすることも出来ない。これはLINE上で予定の摺り合わせを行うときも同様である。LINEに書き込むときには当然、カレンダーアプリも閉じないといけないからだ。

「メシヤのマル秘ネタも書いてあるからネ!」
 裁紅谷姉妹は世界情勢に影響を及ぼしかねない、メシヤの情報流出を防ぐ役割も担っている。

「あんたさ、ポケットが破れてるじゃない。それじゃ落とすに決まってるわよ」
 メシヤが探っていた懐のポケットを見留めて、マリアが姐さんのような台詞を口にした。メシヤは、ポケットに詰め込みすぎなキライがある。

「どれ、ちょっと貸してみなさいよ」
 マリアがバッグから簡易裁縫セットを取り出し、メシヤに学ランを脱がせた。

「マリア、お裁縫出来るんダ!」
 このあたりは、メシヤよりもマリアのほうが一枚上手である。

「マリアさま、お優しいですわ」
 慣れた手つきで玉結びをすると、細かくぐし縫いをほどこし、玉留めでフィニッシュした。

「マリア、ありがとう! これで落とさずにすむよ」
 メシヤは本当に嬉しそうである。ドラえもんなら、竹のお年玉袋に1000円貯まりそうだ。

「俺も見習いたいものだ。ちょっと穴があいたからと言って、すぐ手袋や作業服を捨てる職人もいるんだが、こうやって直して使えば懐も傷まないしな」
 お気に入りの道具なら、なおのことである。

「靴下もサ、全部が破れてるわけじゃないのに買い換えるのはもったいないヨ!」
 足がちょこまか動くエリのことだから、早速真似しようとしている。

「マリアさま、それにしても鮮やかな手捌きでしたわ。以前からお裁縫をされていたのですね」
 レマも興味を抱いている。

「ええ。あたし趣味で服のデザインとか描いてるんだけど、作るのもやってるのよね。このあいだスーパーの婦人服売り場の話が出たけど、ファッションのマンネリ化には危機感があるのよ」
 確かに現代の衣料品店では、無難なデザインのものが多く並べられている。

「縫えの亡く世は、恐ろしいね」




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