第149話 熱い戦い、ハンバーガーショップ

文字数 1,118文字

「ハンバーガーって言ったらもちろんビーフなんだけどさ、時と場合によってはフィッシュバーガーがジャイアントキリングを決めることがあるよね」
 代替バーガーでは勝算は低そうだ。

「それで鳥羽まで行くって寸法ね」
 カラータイヤに履き替えたワーゲンバスで、急行する。

「ちょっとスタートが遅れたな」
 イエスは肉食系なので、ご当地牛のハンバーガーが好みである。

「わたし達では食べられないものも多いみたいですが、フィッシュバーガーなら大丈夫ですわ」
 レマはどんなに美味しいモノを食べても舌が肥えることはなく、感謝の気持ちを忘れない。
「メシヤ、そんなに急がなくてもいいヨ。とばーがーは逃げないネ」
 エリは意外と運転は慎重派である。

「そうよ、エリちゃんの言う通りよ。慌てて飛ばしすぎないでね」
 マリアの言葉にメシヤはハッとした。


~~~~~

 見晴らしの良い展望台までやって来た。
「うわ~、対岸の伊良湖岬まで見えるじゃない!」
 メシヤとマリアは極度の晴れ男・晴れ女である。

「鷹山さんの悲願だった伊勢湾大橋も開通したからな」
 これで関東からの観光客も、大幅にショートカット出来るようになった。

「秋の海もいいものですわ」
 レマは晩秋の弱光を浴びている。

「メシヤ、あれがレストランだネ」
 エリが海を好きなのは、広大な食の宝庫だからだろう。

「そうだそうだ、それが目的だったからね」
 料理人になるくらいなので、他店での研究にも余念が無い。

「え、なにこれ!」
 マリアはあまりにも豊富なハンバーガーメニューに驚いている。

「白身魚のフライはもちろんのこと、タコに伊勢エビ、牡蠣にアワビまであるな」
 牛肉びいきのイエスだが、種類の多さに宗旨替えしてしまうかも知れない。

 各々注文を済ませ、簡素な造りの椅子に腰掛けた。ハンバーガーの他に、伊勢エビの味噌汁とクエのあら汁も追加した。

 作り置きは出来ない代物なので、ファストフードほど手早く食べられるという訳にはいかない。待つこと数分、セルフで食卓に並べた。

 本当に美味いものに出会ったとき、人は顔を歪めてしまう。
「三重の奥地で眠らせておくには惜しいわね!」
 なぜこれが世間的に注目されていないのか、という悔しさがマリアの表情に表れていた。

「完敗だな」
 牛肉に敵などいないと思っていたイエスにも、こう言わしめた。

「こレ、メシヤにも作って欲しいネ!」
 外で美食に巡り逢った時の、エリのお決まりの台詞が飛び出した。

「このクエのあら汁なのですが、なんと言いますか、体の内側が温泉に浸かっているかのような心地よさがありますわ」
 レマが風変わりな譬えで、喜びを表現した。

(うま)し国三重の面目躍如だ!」
 メシヤは扇子をあおいで『ブラボー!』と叫んだ。






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