第116話 木は生きている

文字数 827文字

「しっかし、ホントによく降るわね~」
 赤い傘を差したマリアが、手で雨を受ける。

「あ、見てごらんよマリア」
 メシヤが目で合図をする。

「あの建物がどうかしたの?」
「うん。外壁が木で出来てるけどさ、腐って変色してるよね」

「ああ、確かにね。でも、あそこって出来たばっかりの時はとても立派に見えたわ」
 マリアが記憶を辿る。

「そうなんだ。木の外壁って見た目が鮮やかでやってみたい人も多いんだけど、雨水で腐らないように対策をほどこさないと、ああなっちゃう」
 メシヤも木の家が好みである。

「そうだ。板張りにするなら縦張りより横張りの薄板が望ましい。さらに言うなら、ハードウッドを選択して防腐処理をほどこすことだ。日本人になじみのある種類だと、クリやケヤキだな」
 ここはイエスの出番だ。

「へぇ~、ログハウスとかも雰囲気あっていいもんね」
 マリアは夏のキャンプ場を思い浮かべた。

「あとは小口とか継ぎ目の処理とか気を付けないとね。張り方は鎧張り。釘の種類も重要だよ」
 メシヤの蘊蓄が始まった。

「当然のことだが、雨に外壁が濡れにくくなるように、軒先を長めに伸ばしておくことも大事だな」
 イエスの本宅は寝殿造りである。

「あ~。あれなんだっけ、社会の授業で習ったやつ!」
 マリアの喉元まで言葉が出掛かっている。

「ひょっとして校倉(あぜくら)造り?」
 メシヤが代わりに思い出した。

「そうそう! あれってなんで廃れちゃったのかしら? 理にかなってるとおもうんだけど」
 マリアもよくそこに思いが至ったものだ。

「それは盲点だったね。湿気の調節とかにも向いてるし、木だけだからコストが掛かるわけじゃないし」
 メシヤも驚いた表情だ。

「正倉院とかさ。途中で西宝庫と東宝庫が増築されたけど、天平時代の倉はそのまま残ってるって言うんだから大したものよね」
 マリアも歴史を多少かじっている。

「うんうん。ペルシャやアフガニスタンのお宝も保管されてるって言うから、公開されたら世界史を書き直さないといけなくなるかもね」





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み