第202話 ズーリースプリング郡でいちばんケチな男

文字数 805文字

「コーラー、あなたって本当にマメね」
 人類史上、最強の頭脳を持つと評されるジェニー・オブライエン博士が、世話係のアトラント・コーラーを呼び止めた。

「このほうがキミも仕事しやすいでしょ?」
 資料で散らかりがちな博士の研究室を整理整頓し、掃き掃除からモップ掛け、食事の用意と家事全般をこなしている。何でも屋のコーラーと言われる由縁だ。さすがに、「洗濯は自分でするわ」と断られているが。



「壊れかけた実験器具や建物の修繕をしてくれるのも助かるわ。昔からそうなの?」
 ジェニーもこうした作業は得意なのだが、なにせ時間が無い。

「よくある話さ。生まれた家が貧しかったから、なんでも自分でやらなきゃならなかった。いまでこそ使い切れないほどの報酬を手にするようになったけど、あの頃の癖が抜けなくてね」

 創業者は多大な苦労をしているせいで、技術的なこともビジネス上のことも裏付けがある。だが、何も実経験が無い後継者は、コーラーの精神をよく見習うと良いだろう。

「そうやって節約するから、よりお金も貯まるわけよね」
 緊縮財政云々のツッコミは、野暮である。

「モノにも生命が宿るって話を、ボクは笑わないよ」
 余った材料をポイポイ捨ててはいないだろうか。人の心まで、捨ててはいないだろうか。

「あなたがここに来るように仕向けた人物をわたしもよく知っているのだけれど、これ以上にない適材適所だわ」
 コーラーなら、ジェニーに良からぬ悪巧みを抱くこともない。

「世界一の知性と対面できてるんだ。タダ働きどころかこちらがマネーを支払わないといけないぐらいさ」
 話しながらも手を休めることのないコーラー。

「ああ、とても鼻孔をくすぐる香りね」
 もうランチタイムである。

「お待たせ。キタッラのロ・スコーリオだよ」
 絶海の孤島ならではの一品。ジェニーはシーフードが大好物である。

「メシヤくんの料理も最高だけど、リストランテ・コーラーは、文句なしの三ツ星だわ!」




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