第192話 沼気に勝機

文字数 864文字

「非常事態の時ってエネルギーの確保が肝要だけど、日本は自給率も低いし心配だわ」
 我が国のエネルギー自給率は、11.8%しかない。

「食糧自給率もね」
 こちらは、カロリーベースで37%である。

「有事が起こったら、首根っこを掴まれてるのも同然だな」
 飢えの苦しみは、筆舌に尽くしがたい。

「有事というものは、平時において『そんなこと絶対に起こらない』と高をくくってしまうものなのです」
 有事を経験した世代が存命のうちはそうでも無いのだが、未経験世代が社会の中心を占めてくると、歴史を振り返ることを忘れてしまう。

「日本は海に囲まれてるってのガ、それ自体、要塞みたいなものだよネ」
 大陸諸国は、歴史の変遷が目まぐるしい。

「話を自給率に戻すとさ、世界中の人が肉を食べるようになって、温暖化が懸念されてるんだよね。だからと言って、肉食を人類がやめれるかっていうと、これも難しい」
 メシヤのポリシーは『肉はヘルシー』である。

「メタンガスよね。牛のげっぷや排泄物が原因って言われてるけど、その数値が想像以上なのよね」
 メタンガスによる温室効果は、二酸化炭素の25倍である。

「メタンと言ったら、都市ガスの主成分だよな。宇宙ロケットにも使われてるんだがなあ」
 メタン(CH₄)は、もっとも分子量の小さい炭化水素であり、和名は沼気(しょうき)という。

「そうそう。牛のメタンを抑制する飼料添加物なんて話が出てるけど、それよりもメタンを有効活用できればいいよね」
 牛の糞尿を堆肥にする取り組みは、バイオマスとしてすでに行われている。古くて新しい技術なのだ。

「田舎の方に行くト、ただで牛糞をくれるって看板を見掛けるネ!」
 軽トラックがあれば、わざわざ肥料を買う必要も無い。

「牛のげっぷ・排泄物から、バイオガスと液肥ですわね。環境問題の悩みの種となっていたものが、そうした転用で一気に解決出来そうですわ」
 問題は、いかにしてそのサイクルを作るか、である。

「う~ん、オブライエンさんの出番かな?」
 世話役のコーラーではないが、もはや何でも屋である。

「綺麗は汚い。汚いは綺麗ね」






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み