第194話 あの橋を、渡るとき

文字数 979文字

「何かが変わる気がするんだよね」
 メシヤは伊勢大橋の鉄の弧を渡っている。

「昔は橋を渡るのが命がけだったって言うわよね」
 助手席に座るマリア。

「橋の前にお地蔵さんが立ってたりするのも、そういうことなんだろうな」
 王様は像を造りたがるが、王子像はあまり見掛けない。

「橋を渡ると異世界に通じている、なんてお伽噺もあるようですわ」
 愛知から三重県境を越えると、伊勢界に突入する。

「日本には世界最長の吊り橋もあるネ!」
 エリにとって、立ちブリッジと逆立ちブリッジは、お手の物である。

「そうそう、橋ってそういう曰くが多いよね」
 走って渡るのは危ないのでやめておこう。

「またなんかくだらないこと考えてるんじゃ無いの?」
 メシヤの扱いは慣れっこのマリア。

「ランガートラスとかボルチモアトラスとか色々橋の種類ってあるけどさ。こう、トラス構造の一本一本を塗り分けしたいんだよね」
 レインボーブリッジはライトアップこそすれ、塗装そのものが虹色というわけでは無かった。

「バトゥ洞窟の階段がカラフルに色分けされて、人気の観光スポットになりましたわ!」
 レマの目が、オパールのように輝いた。

「橋を渡るのが楽しくなりそウ!」
 エリも賛成のようである。

「ワーレントラスくらいなら簡単そうだけど、ペンシルヴァニアトラスとかキャメルバックトラスとか、気が遠くなりそうだわ」
 こうした意見も貴重だ。

「費用云々よりも、誰もやろうとしなかったってのが実情かもな。結構考えるのを面倒くさがる業界人は多いんだ」
 他業種の人間のアイデアから、物事が進展するケースもある。

「面白そうでしょ? 車も選べるカラーが増えたけど、基本的、一台に対して一色だけだよね。塗り分け文化が浸透してきたら、楽しいと思うよ」
 車の塗り分けは、ツルンとした車よりも、デコボコした車の方が、映える。

「車のボディをわたくしの髪色にして、ホイールをゴールドにしたいですわ!」
 カラーシミュレーションが出来ると、客も決断しやすい。

「トラスを本数分すべて色を変えるのは難題だが、三色くらいでパターンをまとめるなら現実的だし目を引きそうだ」
 これも良い案だろう。

「そう考えると、道路はなぜそもそも黒しかないのかって話になっちゃいそうね」
 カラーアスファルトは、まだまだ高価である。

「オレンジロードはホントにオレンジ色にすればいいんだと思うよ」






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