第204話 爪に火を灯すように

文字数 834文字

「メシヤは深爪だネ!」
 エリは人の細部をよく観察している。

「うん。ちょっとでも伸びてると、引っかかって折れちゃうんだよね」
 ちょこまか手作業をする人ならではの発言である。

「イエスさまも同じですわ」
 レマは視線を十九川財閥の御曹司に向けた。

「ああ。メシヤと同じ理由だな。爪なんて簡単に持ってかれてしまうからな」
 難点は、めくる作業をする時だろうか。

「手の爪はいいんだけど」
 マリアの爪はやや伸びている。

「足の爪って切りにくいわよね」
 マリアが言い終わると、エリとレマがマリアのお腹を見た。

「違うわよ! お腹がつっかえて切れないんじゃないわ!」
 割れてはいないが、マリアの腹筋は見事である。

「関孫六の爪切りを僕も使ってるけど、足はまた別ので切ってるよ」
 臥龍剣・鳳雛剣は、鍛冶町の関市で造られた。

「うむ。一般的な爪切りは手の爪を切りやすいようにカーブが掛かっているが、それだと足の爪は切りにくくなるんだよな」
 イエスは自分の爪に目をやり、握りしめた。

 メシヤはマリアに足用の爪切りを手渡した。『ハラッパーの真ん中で』は、このシチュエーションが非常に多い。

「へえ、良さそうじゃない!」
マリアは靴下を脱ぐと、早速爪切りに取りかかった。
もう少し、女性としての恥じらいを持って欲しいものだ。

「マリア、親指が大きいネ!」
足の親指が大きいのは、霊感が強い証であるという。

「そうかしら? こんなものだと思うけど」
マリアは刃を入れた。手用と違って、刃が斜めに一直線になっている。

「どうですか? マリアさま」
レマの爪は、小さくて赤ちゃんのようである。

「うんうん、これいいわね! メシヤ、ちょっとのあいだこれ貸してよね!」
ジャイアニズムの発動である。

「いいけど、可愛いデザインのもあるから、マリアも買うといいよ」
メシヤが目のやり場に困りながらつぶやく。

マリアは幼少のころ、年の離れた兄に爪を切ってもらっていたことを思い出した。
マリアの少し荒れた手は、人知れぬクロウがあったことを、感じさせた。







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