第32話 リリーの探索 クラレンスの私室

文字数 1,114文字

「そう。クリスが探してくれているんだ」
 先ほど、リオンに言った通り、私達はクラレンスの部屋に行ってお茶を飲んでいる。
 人に聞かれたら困る話なので、人払いはすでに済ませていた。

「はい。手伝う事が無くて追い出されたのですけど、お屋敷に戻るわけにもいかなくって」
「キャロルの部屋も、まだ入れるようになるまで時間が掛かるだろうし。慣例では婚礼の儀の半年前から入るようになるから」
「そうなんですか。兄様にクラレンス殿下のところにいるって言ってしまったから、ゲストルームも使えないし」
 というか、使ったら侍女を通じてすぐにばれそう。

「キャロルが嫌でなかったら、私の部屋にいるのはかまわないのだけどね」
「いいんですか?」
 思わず、笑顔で言ってしまった。
「ただ……人払いもしているし。その……」
 なんだか言いづらそうにしている。なんだろう? やっぱり、まずい事があるとか?
「あのね。クリスが言わなかった? 異性と二人っきりになるなとか」
 ん? 異性? ああ……
「賢者様から、クリス殿下といる時は気を付けてって。なんか欲が有るとか無いとか」
「あ……うん」
 なんだろう。途方に暮れたような顔をして……。

「部屋の中を案内しようか。こっちが小さいけどサロンがあって、こちらが衣装部屋。ドレスや寝間着は後で調達するとして。ああ、こっちが寝室。小部屋もあるのだけれど、寝具を入れてたら目立つからね、こっちを使ってくれたら良いよ。良かったら私のベッドを使ってくれ。私は適当に……」
 執務室の仮眠室でって言いかけたのだと思うけど。

「けっこう、広いですね。これだったら二人で寝ても充分ですよ」
「いや。私は執務室の奥の仮眠室を使うから」
「え? クラレンス殿下を追い出すわけ行かないです。同じベッドが嫌なら、わたくしは。床に寝ますから。わっ」
 そこまで言って、抱き寄せられた。
 このまえクリスに感じたような怖さがよみがえる。
「クラレンス殿下?」
「賢者様が言った事。私にも当てはまるから」
 この前のクリスと違って、ギュッと抱きしめたまま放してくれない。

「だから、そういう覚悟がないのなら、男をベッドに誘うような真似するんじゃない」
 そう言う覚悟って……。って言うか、苦しい。
 私が腕の中で、身じろぎしているのに気付いたのかすぐに力を緩めてくれる。
「悪かったな。だけど、私でなくとも男性と二人っきりの時は、警戒してくれよ」
「はぁ」
 そう言えば、クリスもそう言ってた。よくわかんないけど……。

『キャロル。リリーが見付かった』
 いきなり頭の中に、クリスの声が聞こえた。
「クラレンス殿下。リリー様が見付かったって。行きましょう」
 私は、クラレンスの腕を掴んで賢者の間に飛んだ。
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