第30話 リリーの捜索 由有紀の意地と魂
文字数 1,778文字
私がたどり着いたのは、クラレンスの執務室。
周りはやっぱり無反応なのでちゃんと結界も張れたみたい。
なにか、体がきしむように痛いけど。
「キャロル? ……ユウキ嬢?」
痛みで倒れそうになったのを、クラレンスはとっさに支えてくれた。
自分だって、まだ痛いはずなのに。
私を支えてくれている腕にそっと手を置く。体を癒すための能力を使った。
「痛みが……消えた?」
クラレンスは呆然として言っている。
うまく治せたみたいで、良かった。
また、ズキンと心臓のあたりに痛みが走った。
そっか、賢者の能力を使うと体に負担がかかって痛いんだ。
「すみません。クリス殿下が、そのまま帰すから。私、賢者の間に戻って、リリー様を探しますね」
「あっ、まって……ユウ」
何か言いかけてたみたいだけど、何だったんだろう。
次の瞬間には、賢者の間に戻っていた。
まるで、そこに私が帰ってくるのが分かっていたように、私のすぐ目の前の位置で、クリスが待っていた。
「何やってるの? 君は」
真顔……と言うか冷たい目で見られている。
「クリス殿下には、関係ないです」
「ふ~ん。関係無いんだ」
クリスは、私を睨んだまま、さっきまで探索に使っていた水晶を消した。
「関係……無いです」
怖くても頑張れるのは、内側から賢者のクリスが寄り添ってくれているのが分かるから。
だって、最初の夜会の時より怖い。
「好きにすれば?」
そう言い残して、クリスは賢者の間の奥の方に行って、転がってしまった。
多分、もうクリス殿下は協力してくれない。
私は、水晶を出した。
心臓に、痛みが走った気がした。でも、これは……。
大丈夫。慣れた痛みだ。以前の体の心臓が痛い時の。
良かった。前の体はすぐに倒れていたけど、この体は大丈夫だ。
リリーを助けるまでもてば充分だもの。
水晶を見て、捜索範囲は中にいるクリスに任せて探し出す。
時々、きしむような痛みもするけど。平気だわ。
奥に転がっている(もう、自室に戻ったかもしれないけど)クリスの事なんか忘れて、私はずっとリリーを探していた。
なにか肩に触れて、スッと痛みが消えていく。
振り返ると、そこにはクリスがいた。
「よくこんな痛みに耐えてるね」
「前の体の心臓発作よりはマシですから」
痛みが消えたのは、有難いけど、時間が惜しい。
私はまた水晶の方に向き合った。
「悪かったよ。僕が探すから賢者の能力使わないでくれる?」
「結構です。殿下にただ働きさせるなんて、とんでもないです」
私にだって意地があるのよ。なけなしの意地だけど。
だって、イヤイヤ手伝ってもらって、その都度、文句言われるのもイヤだもん。
「君の魂がもたない。お願いだから。ユウキ」
なんだか必死になって、言ってるみたい。
分かってるよ。もたないって、わかってるから急いでるのに。うるさい。
「ごめん。もう無理だって、消えてしまっても良いって言ってたのに、意地悪言ってごめん」
「クリス殿下?」
こちらの礼を執るやり方で無く。体を直角に曲げて謝っている。
なんだか、ずるい。
私の体がふわっと宙に浮いて、探索に使っていた水晶はクリスが自分の方に引き寄せた。
痛みが完全に消えて、楽になる。
「僕が、責任を持って探索するから待っていてくれる?」
少し痛いような、力ない笑い方をしている。
「なんで……」
「君は、その能力を使うたびに、命を……魂を削っているんだ。魂の消滅を避けるためにこちらの世界に来て、賢者と離れたのに、これじゃ本末転倒だろ?」
そんな理由だったんだ。
「僕らの転移と、リリーたちの国外脱出のための転移だけだと思ったから、実行しようと思ったんだよ。僕と賢者で内外から君を支えたら何とかなると思って」
クリスは私をゆっくり床に降ろした。
「今回だけ……君の言うとおりに動くよ。だから、その能力を使わないで頂けますか?」
目の前で、今度はクリスから完ぺきな礼を執られた。
「あの……。水晶でリリー様を探索して頂けますか?」
「喜んで」
「それと、リリー様を国外へ転移する時に、クラレンス殿下にも、立ち会わせて頂けますか?」
クリスがピクッと反応したけど。
「仰せのままに。リリーが見付かったら、すぐにこちらに呼ぶって事で良いかな」
「お願いします」
「かしこまりました」
クリスはもう一度礼を執って、水晶に向かい、探索を始めた。
周りはやっぱり無反応なのでちゃんと結界も張れたみたい。
なにか、体がきしむように痛いけど。
「キャロル? ……ユウキ嬢?」
痛みで倒れそうになったのを、クラレンスはとっさに支えてくれた。
自分だって、まだ痛いはずなのに。
私を支えてくれている腕にそっと手を置く。体を癒すための能力を使った。
「痛みが……消えた?」
クラレンスは呆然として言っている。
うまく治せたみたいで、良かった。
また、ズキンと心臓のあたりに痛みが走った。
そっか、賢者の能力を使うと体に負担がかかって痛いんだ。
「すみません。クリス殿下が、そのまま帰すから。私、賢者の間に戻って、リリー様を探しますね」
「あっ、まって……ユウ」
何か言いかけてたみたいだけど、何だったんだろう。
次の瞬間には、賢者の間に戻っていた。
まるで、そこに私が帰ってくるのが分かっていたように、私のすぐ目の前の位置で、クリスが待っていた。
「何やってるの? 君は」
真顔……と言うか冷たい目で見られている。
「クリス殿下には、関係ないです」
「ふ~ん。関係無いんだ」
クリスは、私を睨んだまま、さっきまで探索に使っていた水晶を消した。
「関係……無いです」
怖くても頑張れるのは、内側から賢者のクリスが寄り添ってくれているのが分かるから。
だって、最初の夜会の時より怖い。
「好きにすれば?」
そう言い残して、クリスは賢者の間の奥の方に行って、転がってしまった。
多分、もうクリス殿下は協力してくれない。
私は、水晶を出した。
心臓に、痛みが走った気がした。でも、これは……。
大丈夫。慣れた痛みだ。以前の体の心臓が痛い時の。
良かった。前の体はすぐに倒れていたけど、この体は大丈夫だ。
リリーを助けるまでもてば充分だもの。
水晶を見て、捜索範囲は中にいるクリスに任せて探し出す。
時々、きしむような痛みもするけど。平気だわ。
奥に転がっている(もう、自室に戻ったかもしれないけど)クリスの事なんか忘れて、私はずっとリリーを探していた。
なにか肩に触れて、スッと痛みが消えていく。
振り返ると、そこにはクリスがいた。
「よくこんな痛みに耐えてるね」
「前の体の心臓発作よりはマシですから」
痛みが消えたのは、有難いけど、時間が惜しい。
私はまた水晶の方に向き合った。
「悪かったよ。僕が探すから賢者の能力使わないでくれる?」
「結構です。殿下にただ働きさせるなんて、とんでもないです」
私にだって意地があるのよ。なけなしの意地だけど。
だって、イヤイヤ手伝ってもらって、その都度、文句言われるのもイヤだもん。
「君の魂がもたない。お願いだから。ユウキ」
なんだか必死になって、言ってるみたい。
分かってるよ。もたないって、わかってるから急いでるのに。うるさい。
「ごめん。もう無理だって、消えてしまっても良いって言ってたのに、意地悪言ってごめん」
「クリス殿下?」
こちらの礼を執るやり方で無く。体を直角に曲げて謝っている。
なんだか、ずるい。
私の体がふわっと宙に浮いて、探索に使っていた水晶はクリスが自分の方に引き寄せた。
痛みが完全に消えて、楽になる。
「僕が、責任を持って探索するから待っていてくれる?」
少し痛いような、力ない笑い方をしている。
「なんで……」
「君は、その能力を使うたびに、命を……魂を削っているんだ。魂の消滅を避けるためにこちらの世界に来て、賢者と離れたのに、これじゃ本末転倒だろ?」
そんな理由だったんだ。
「僕らの転移と、リリーたちの国外脱出のための転移だけだと思ったから、実行しようと思ったんだよ。僕と賢者で内外から君を支えたら何とかなると思って」
クリスは私をゆっくり床に降ろした。
「今回だけ……君の言うとおりに動くよ。だから、その能力を使わないで頂けますか?」
目の前で、今度はクリスから完ぺきな礼を執られた。
「あの……。水晶でリリー様を探索して頂けますか?」
「喜んで」
「それと、リリー様を国外へ転移する時に、クラレンス殿下にも、立ち会わせて頂けますか?」
クリスがピクッと反応したけど。
「仰せのままに。リリーが見付かったら、すぐにこちらに呼ぶって事で良いかな」
「お願いします」
「かしこまりました」
クリスはもう一度礼を執って、水晶に向かい、探索を始めた。