第11話 クリス様の行動 キャロル様との未来の昔話

文字数 1,332文字

「じゃあ、行こうか。ロザリー」
 兵士たちが、私を捕縛するのを制して、クリス様は私に手を差し伸べる。
 私が戸惑って、その手を取れずにいると。
 強引に手を掴み私を引き上げ立たせた。

「え? あの、クリス様?」
「何? 抱っこして連れて行けって? もう、仕方が無いなぁ」
 そう言って、ひょいっと、お姫様抱っこする。
 え? ええ? 何? 
 私は、パニックになっていた。だって、今、私は牢獄行が決まったばかりで。
 クリス様はさっきの私の返答に、厳しい態度で接していた。

 いや。それ以前に、なにかみっともない。
 子どもみたいに抱っこされて移動するなんて、こんなの、王女としての矜持も何もあったものではない。
「歩けます。クリス様。わたくし、自分で歩けますから」
 私はクリス様の腕から逃げようと暴れた。
「暴れたら落ちるよ。みんな、ヒマじゃないんだ。君の歩調にいちいち合わせてられないよ」
 優しさの欠片も無いセリフだけど、お顔を見ると。
 クリス様は、周りの兵士たちをけん制しているのが分かった。
 そして私が暴れるのをやめたら、自分の護衛だけを連れて部屋を出て行った。


 だから、私は知らなかった、その後の話し合い。
 随分後になってから、思い出話としてキャロル様から聞いた話。

 私たちが出て行ったあと、早々に兵士たちも引き上げて行ったらしい。
 もともとは、クラレンス様の執務室に入る資格すらない、貴族の私兵たちだったようだ。

 キャロル様は、ご自分の婚約者であるクラレンス様に訊いたそうだ。
「クリスが一緒に行ったのなら、大丈夫よね。ロザリー様は」
 私兵も居なくなり、人払いも出来ているのに、部屋の中の空気はものすごく重々しいもので。
 普段ならキャロル様を優しくなぐさめてくれるクラレンス様まで、厳しい顔のまま考え込んでいた。

「獄中死の事なら、クリスが何とかするだろうな。不逞(ふてい)(やから)に、手出しはさせないだろうから」
 ダグラス様は、そんな事を言ったらしい。
 実際にあるのだそうだ。処刑をするのが難しい場合や何らかの原因で、獄中で襲われてしまう事が。

 キャロル様は、そのお話を聞いて。クリス様が一緒でも、どうしようもない事態になっているのだと、気付かされたのだと言った。
 思わず涙が出てしまったキャロル様に対し、クラレンス様は諭すように言われたそうだ。
「他の事は、これから私たちが大丈夫にするんだよ。キャロル」
「そうだな。クリスは俺達を信頼して、牢獄に行ったんだ」
 そうダグラス様も言う。
「キャロル。泣く前にやる事があるだろう?」
 リオン様にまでそう言われて、キャロル様は覚悟を決めて、
「わたくしに出来る事があるのなら」
 そう言って、私達を助ける算段をしてくれた。

 キャロル様も、シルヴィア様も、私の事を微笑ましく見ていて下さった婦人会の方々も、本当に頑張って下さったらしい。
 殿方の行動は、キャロル様たちには分からなかったそうだけど。
 双方からの働きかけで、噂に煽られた方々を抑えて行ったのだという。
 そして、先導をしていた貴族たちを処刑まで追いやったという事は、キャロル様でさえ後から聞かされた話だったのだそうだ。

 私は、そのお話を聞いて当時の事を思い出し、笑いながらも少し涙ぐんでしまっていた。
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