第22話 夜会から抜け出したクラレンス殿下
文字数 1,530文字
クリスと夜会会場に戻ってから、クラレンスの姿を探す。
会場のどこにもいない。ラストダンスの時間になっても、私達の元にやって来なかった。
クリスは、会場内にいないと分かると、壁際でじっと目を閉じて何かに集中している。
「今日は、王妃側が主催している夜会だから、ダグラスもいないのか」
いきなり目を開けたかと思うと、やれやれという感じで、クリスは言った。
そして、自分が連れて来た使用人に指示を出していた。
私はというと、そんなクリスの横で呆然としてしまっている。たいていの理不尽には慣れたと思ったのに、夜会に置き去りにされるなんて初めてだ。
どうすれば良いのか、分からない。
「おいでキャロル。君の馬車はもう屋敷に帰したから、僕の馬車にお乗り」
クリス? なんで?
疑問に思っている間に、馬車に乗せられている。
「クラレンスも行動が早いよな。もう私室に戻っているんだから」
「私室って……、王宮の?」
「他に無いだろう? 今の僕は能力を使うのも大変なんだから、少しは大人しくしてくれないかな、全く」
横に座ってブツブツ文句を言っている。クリスがいてくれて良かった。
だけど、協力しないって言ったのに。
「あの。協力してくれるんですか?」
「しないよ」
クリスから何を言ってるんだって顔をされた。
「でも、王宮に連れて行ってくれてるし」
「ああ、そうか。じゃあ代償を貰おう」
頬にクリスの唇が触れて、チュッて音がした。反射的に手で頬を押さえる。
その様子を見てクリスが笑った。
「初心 だねぇ」
心なしか嬉しそうに聞こえる。
なんだか、その笑顔が懐かしく感じた。
王宮に着いたら少しざわついていた。
荷物と剣を持って出て行こうとするクラレンスを、近衛騎士たちが遠慮がちに止めようとしている。ダグラスとは口論になっていた。
「ああ。やっと帰ってきたか。クラレンスを止めるのを手伝ってくれ」
私たちを見つけるや否や、ダグラスが言ってくる。
「どうしたのです」
私では無く、クリスに言っているのだと分かっているけど。
「このバカが、王宮から出て行こうとしてるんだ」
いや、王太子に向かってバカって。今さらか、ダグラスは……。
「そこの近衛騎士たちに取り押さえさせたらいいじゃないか」
なぜそうしないのかとばかりに、クリスは言っている。
「そんな事したら、近衛騎士たちが不敬罪で投獄されてしまう」
ダグラスのその言葉を聞いて、クリスは長い溜息を吐いた。
「ったく。どいつもこいつも。何で僕がこんな事を……」
そう言いながら、クリスはクラレンスに近付き、思いっきりぶん殴った。
ガタンッとすごい音がして、クラレンスの体が壁にぶち当たる。
私は悲鳴が出そうになるのを押さえるのが精一杯だった。
怒鳴り声だけでも怖いのに……。
「何をする」
クリスに殴られて切れてしまったのか、口の端から血が出てる。
「それは、こっちのセリフだよ。夜会にキャロルを置き去りにして、何やってるんだよ。最低だな、君は。キャロルはそんな君を心配して僕に相談をしていたのにね」
クリスのそのセリフに、クラレンスは呆然としたような顔をして私を見る。
私の方に寄って来たクリスが、ハンカチを渡してくれた。また、涙が出ていた。
ハンカチを受け取る手が震えている。
「行きたければ、どこにでも行けば? もう、いい加減うんざりだよ」
クリスは私の肩を抱き、王宮の奥に進んでいこうとする。
「クリス殿下。そんな言い方は……」
「何? まだかばうの?」
また睨まれてしまった。これ以上はもう許さないって感じがした。
「おい。キャロル嬢をどこに連れて行く気だよ」
ダグラスが、焦った感じで訊いてきた。
「野暮だよ」
そんなダグラスに、クリスは笑って言い返してた。
会場のどこにもいない。ラストダンスの時間になっても、私達の元にやって来なかった。
クリスは、会場内にいないと分かると、壁際でじっと目を閉じて何かに集中している。
「今日は、王妃側が主催している夜会だから、ダグラスもいないのか」
いきなり目を開けたかと思うと、やれやれという感じで、クリスは言った。
そして、自分が連れて来た使用人に指示を出していた。
私はというと、そんなクリスの横で呆然としてしまっている。たいていの理不尽には慣れたと思ったのに、夜会に置き去りにされるなんて初めてだ。
どうすれば良いのか、分からない。
「おいでキャロル。君の馬車はもう屋敷に帰したから、僕の馬車にお乗り」
クリス? なんで?
疑問に思っている間に、馬車に乗せられている。
「クラレンスも行動が早いよな。もう私室に戻っているんだから」
「私室って……、王宮の?」
「他に無いだろう? 今の僕は能力を使うのも大変なんだから、少しは大人しくしてくれないかな、全く」
横に座ってブツブツ文句を言っている。クリスがいてくれて良かった。
だけど、協力しないって言ったのに。
「あの。協力してくれるんですか?」
「しないよ」
クリスから何を言ってるんだって顔をされた。
「でも、王宮に連れて行ってくれてるし」
「ああ、そうか。じゃあ代償を貰おう」
頬にクリスの唇が触れて、チュッて音がした。反射的に手で頬を押さえる。
その様子を見てクリスが笑った。
「
心なしか嬉しそうに聞こえる。
なんだか、その笑顔が懐かしく感じた。
王宮に着いたら少しざわついていた。
荷物と剣を持って出て行こうとするクラレンスを、近衛騎士たちが遠慮がちに止めようとしている。ダグラスとは口論になっていた。
「ああ。やっと帰ってきたか。クラレンスを止めるのを手伝ってくれ」
私たちを見つけるや否や、ダグラスが言ってくる。
「どうしたのです」
私では無く、クリスに言っているのだと分かっているけど。
「このバカが、王宮から出て行こうとしてるんだ」
いや、王太子に向かってバカって。今さらか、ダグラスは……。
「そこの近衛騎士たちに取り押さえさせたらいいじゃないか」
なぜそうしないのかとばかりに、クリスは言っている。
「そんな事したら、近衛騎士たちが不敬罪で投獄されてしまう」
ダグラスのその言葉を聞いて、クリスは長い溜息を吐いた。
「ったく。どいつもこいつも。何で僕がこんな事を……」
そう言いながら、クリスはクラレンスに近付き、思いっきりぶん殴った。
ガタンッとすごい音がして、クラレンスの体が壁にぶち当たる。
私は悲鳴が出そうになるのを押さえるのが精一杯だった。
怒鳴り声だけでも怖いのに……。
「何をする」
クリスに殴られて切れてしまったのか、口の端から血が出てる。
「それは、こっちのセリフだよ。夜会にキャロルを置き去りにして、何やってるんだよ。最低だな、君は。キャロルはそんな君を心配して僕に相談をしていたのにね」
クリスのそのセリフに、クラレンスは呆然としたような顔をして私を見る。
私の方に寄って来たクリスが、ハンカチを渡してくれた。また、涙が出ていた。
ハンカチを受け取る手が震えている。
「行きたければ、どこにでも行けば? もう、いい加減うんざりだよ」
クリスは私の肩を抱き、王宮の奥に進んでいこうとする。
「クリス殿下。そんな言い方は……」
「何? まだかばうの?」
また睨まれてしまった。これ以上はもう許さないって感じがした。
「おい。キャロル嬢をどこに連れて行く気だよ」
ダグラスが、焦った感じで訊いてきた。
「野暮だよ」
そんなダグラスに、クリスは笑って言い返してた。