第11話 ギルバートとメアリーのエピローグ

文字数 2,266文字

 翌日、勉強部屋に行ったら心配顔のギルに迎えられた。
 横にはクラレンスまでいる。
 他にはまだ誰も来ていないようだった。

「メアリー。無事で良かった。心配したんだよ。母上と一緒に消えてしまうなんて」
 そう言いながら思いっきり抱きしめられる。
 あの母にしてこの子あり。いやいや。
 私はどう返答していいのかわからず、クラレンスの方を見た。
 クラレンスからしてみれば、私は愛する妻を害そうとした人間だ。
 
 そうしたら、クラレンスは膝を折り私に目線を合わせてきた。
「無事に戻ってくれて、本当に良かった。メアリー姫」
 そうか。大人たちの間でそういう風に決着が付いたか。
「心配かけてごめんなさい。ギル」
「ううん。良いんだ。どうしようもない事だったんだろ?」
「うん。お義父様にも、心配かけてしまってごめんなさい」
 そう私が言ったら、大きな手で頭を撫でてくれた。
 これが私たちの和解の仕方。

 そして、他の子どもたちが来る前にクラレンスは公務に戻ってしまった。

 代わりの様に、賢者が部屋の片隅で座っている。
 ギルは相変わらず、皆の世話を焼く、良いお兄さんだ。
 アリスとは、少しずつ共通の趣味を見つけておしゃべりを楽しんでいる。

 時々、キャロルが授業の休み時間を目掛けてやってくるけど、公務はどうなっているのだろう。
 あるよね。王妃ほどじゃなくても、王太子妃にも公務が。
 最初は恐縮していたアリスも、今ではすっかりキャロルに抱きしめられるのに慣れてしまっていた。
 私はやっぱり、抱きしめられるたび命の危険を感じるのだけれど。
 ギルもね。抱っこ位させてあげれば良いのに。
 キャロルが悲しそうな顔をして諦めていた。

「私はなんでこんなところで子どもたちを、見ているのだろうね」
 賢者が、子どもたちの様子を眺めながら言っている。
「いいじゃない。責任もってキャロルの保護者やりなよ。次に会う時が、魂が消える時なんて、あんまりだろう?」
 そう、賢者に言う。だって、結界の中でのキャロルは本当に悲しそうだった。
「大きなお世話だ」
 ため息交じりに賢者が言った。
「辛くても、仕方が無いだろう? 自業自得だ」
「別に、辛くはないさ。キャロルから離れたのは、自立を促すだけだから。今世では私は保護者以上のものにはなれないからね」
 ふ~ん。本音が混じり始めたか。
 まぁ、辛く無いというのならそういう事にしておこう。
「この魑魅魍魎(ちみもうりょう)漂う王宮で、人を頼る事を覚えてしまったら、とても生きてはいけない。当初、クリスが嫌う程、甘ったれだったからね」
「無防備なのは、確実に君の所為だろうにね」

 そんなやりとりを賢者としていたら、キャロルがやってきた。
「こんにちは。賢者様」
賢者(クリス)で良いよ。キャロル」
「今日はどうしたの? 賢者(クリス)
「引き籠ってばかりじゃ、カビが生えるってメアリー姫から言われてね。たまに王宮内をウロウロしているから、気が付いたら声を掛けてね。また二人でお茶でもしよう」
 賢者がにこやかに言っている。
「そうですね」
 キャロル。ずるいなぁって、心読まなくても分かるくらい顔に出てるよ。
 ……と、あくびが出そうになった。ダメだ、淑女がこんなところであくびなんてしては。
 だけど、眠い。
 
 思わずキャロルのドレスに縋ってしまった。
「幼児の体は辛い」
 昨日、ずっと結界を張っていて、しかも賢者の抵抗にも耐えていたから……。
 キャロルが抱きかかえようとしてくれている横で、ギルの声がした。
「私が、お部屋まで運んで行きます。母上」
「大丈夫? 落としたらダメよ」
 そんな会話が聞こえてくる。
 私はギルに抱っこされたまま、部屋に戻る事になった。
「落ちたりしないだろう? メアリーだし」
 聞こえない様に言ったつもりだろうけど、しっかり聞こえてるからな、賢者。
 念のために、能力を使って落ちない様に、固定したけど。

 ギルがゆっくりとした足取りで、部屋を出ようとしたらクリスがやって来た。
 ギルと私に向かって、軽く礼を執ってアリスの方に向かっている。

「アリス、帰るよ」
「お父様」
 ギルに抱っこされて、半分目が閉じかけている私の視界にパァッと明るい顔をしたアリスが見えた。
 クリスはちゃんと娘を可愛がっているらしい。
 今日あった事を、一生懸命アリスがクリスに話しているのが聞こえた。

 その様子を、賢者がまぶしそうに見つめている。
「クリスもすっかりお父さんか」
 そうつぶやくのを、性能の良い私の耳が拾ってしまっていた。

「おっ。ギルはメアリーを送って行くのか? 落とすなよ」
「落としませんよ。父上」
 いつの間にか、クラレンスまで入って来ていた。
 キャロルと自分の子どもたちを迎えに来たのだろう。
 まったく、この国の公務はどうなっているのやら……。
 いつの間にか、賢者も室内から消えているし。
 

「メアリー。安心して寝ていて良いからね。ちゃんとベッドまで送り届けるから」
 いくら年齢より私が小柄だからと言って、十歳の少年には重いだろうに、しっかり抱えてくれている。
 賢者たちには、ギルを夫として立てこの国の制度改革を手伝うと約束したが、そんな約束が無くても、私はギルが婚約者で良かったと思う。
 何より、ギルの側にいるのは心地よい。

「うん。ギル、だあいすき」
 私は安心して眠りに落ちる。
「僕も大好きだよ。お休み、メアリー」
 意識が途切れる瞬間。そんな言葉が聞こえた。

                               おしまい

ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。
明日は賢者とユウキのおまけが上がります。
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