第31話 リリーの探索 キャロルの戸惑い

文字数 1,793文字

 何日経ったんだろう。
 クリスはずっと水晶を見続けている。時々、とりとめの無い話なんかはするけど。
 例えば、賢者のクリスが知らない、国王と王妃の関係。
 賢者の石のクリスが入っていない時は、王妃は国王の絶対的な味方になる様に設定しているらしい。
 ただ、その国王の中身が変わっても、国王という立場の人間の味方という事だけど。
 そんな話をしている時も、クリスは水晶から目を離していない。

 そして、賢者の間には、あの居心地の良い和室が復活していた。
 
 クリスは第二王子の体では無く、賢者の(からだ)……そう言うと、僕の(からだ)を横取りされたと反論されるけど……に、入っているんだそうだ。
 そうでないと、私のサポートをするどころか、足手まといになってしまうのだと言った。

 賢者のクリスがいない今。料理が出来る人が誰も居ない。
 分裂している訳じゃなくて、本当に別人なんだ。

 今もクリスは目で水晶を追って、カップラーメンをすすってる。
 私も、カップラーメンを食べていた。う~ん、こういうのってTVであったよね。

「なんか、刑事ドラマの張り込みシーンみたい」 
 私がそう言ったら、クリスが一瞬睨んできた。
 やっぱり、不謹慎? 緊張感が無いとか思われてそう。
 
「……ユウキ。もう、キャロルって呼ぼうか。賢者と約束したんだろ? こっちの世界で頑張るって」
「ええ。それが条件ですもの」
 クリスはやっぱり水晶を見ているけど。

「分かった。じゃあ、キャロル。一度お家へお帰り。毎回、カップ麺じゃ体に悪いし。いる意味ないよね」
「私、邪魔ですか?」
「そうじゃ無くてね。あまり帰らないでいると、アシュフィールド家が色々勘ぐるだろう? ずっと、僕と一緒だったなんてバレたら、君の望まない結果になるよ。僕はかまわないけど」
「そうなんだ。私、よくわからなくて」
「うん。今は分からなくて良いから。とりあえずそれを食べ終わったら、お帰り。リリーが見付かったら呼ぶから」
 やっぱり、邪魔って思われてるんじゃないかな。



 これからどうしよう。能力はあまり使えないから、お屋敷の方に戻ったら、リリー様が見付かった時に間に合わないよね。
「キャロル?」
 考え事をしながら、王宮の廊下を歩いていたら、リオンに声を掛けられてしまった。
「お兄様?」 
 やばっ。何でこんなところにいるかなぁ。
「今日はお仕事ですか?」
 なるべくニッコリ笑って対応する。
「キャロルは、ずっと家に戻っていないようだが、王宮で何をしているの?」
 あ……えっと。どうしよう。
「お……王太子。クラレンス殿下のところに……」
「何でそんなすぐばれるウソを吐くんだい。本当はどこにいたの?」
 なんか親に叱られてるみたい……。って本当、何て言い訳したら……。
「今日は帰るんだよな」
「あ……えっと」
 私は思わずリオンから目を逸らした。いや、お兄様怖い。

 目を逸らした先にクラレンスが見える。
 クラレンスがこちらにやって来るのを見付けたのか、リオンがサッと礼を執った。
 私も礼を執る。

「リオン。仕事は終わったのか?」
「はい。今日は早めに上がらせて頂きます。ちょうど、キャロルとも会いましたので」
 やだ。このままだと、連れて帰られてしまう。
 クラレンス殿下。私、帰れません。帰りたくないです。
 そう念じながら、目を向けた。
 クラレンスと目が合った瞬間、自然な動作で引き寄せられる。
 へ?

「すまない。まだ、連れ帰らないでもらえるかな。リオン」
 つ……通じた。すごい、クラレンス殿下。
 リオンはいぶかしむような目で私たちを見てるけど。
「殿下」
「なんだ?」
「キャロルは、ずっと殿下の私室に泊まっていたのでしょうか?」
 リオンがそう言ったら、クラレンスからチラッと見られた。
 何かまずかったかな?
 つい、私もクラレンスを見上げてしまう。

「そうだが。何か問題があったかな」
「いえ。それならば良いのですが。家族が心配していたもので」
 そして、リオンは私の方を向いて言う。
「キャロル。殿下の所ならかまわないけど。そういう時は手紙の一つでも使用人に言付けてくれたら、こちらも安心するのだけれどね」
「すみません。お兄様」
 本当に、ごめんなさい。
「ああ。私が伝えていると思ったのだろう。忙しくて忘れていたからな」
 これ以上怒られないように、クラレンスが庇ってくれた。
 クラレンスがまだしばらく預かるからと言って、リオンと別れた。
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