第27話 賢者とクラレンス殿下

文字数 2,261文字

 本来の私って何だろう?
「一応言っておくけど。一度動き出したものは、賢者(ぼく)にだって止めれない。止めれないけど、方法が無いわけではないんだ。ただ……」
「ただ?」
「ユウキが、キャロルとして、この世界で頑張るって言わないと教えない」
「交渉ですか?」
「そう、交渉。もう二度と消えるなんて言わないでくれ」
「…………わかりました」
 私がそう言うと、クリスはホッとした顔になった。

「ユウキが言ってた方法に、似ているのだけどね。その体に僕が入るスペースを作るんだ。主導権は、君が取って僕が能力を貸すって方法」
 私が言っていた方法って正しかったんだ。
「僕の能力をフルで使えて、王城の外に出る方法は今はこれしかないからね。王妃は公務がある以上、この件で動いたら目立つし」
 クリスはものすごくイヤそうに言っているけど。
「助けられる可能性があるなら私はかまいません」
「……僕がかまうのだけど」
 なんだか、ブツブツ言ってる。

「では行こうか」
 気を取り直したかのようにクリスが言った。
「行くって?」
「クラレンスのところ。元はと言えばあいつの所為だからね。ユウキが苦しむ必要なんて全然ないから」
 クリス、なんだかすごく怒っているような気がするのは気のせい?
「あの」
「だいたい、あの方法だって、ユウキに負担かけまくるのに……。ああ、考えたらだんだん腹が立ってきた」
「クリス様?」
 大丈夫かな? なんか、このままクラレンスと会ったらまた殴りそう。
「ああ。大丈夫だよ。行こう」

 一瞬で元にいたサンルームに飛んだ。
 なんか便利だな。賢者の能力って。だけど……。
「良いけどね。便利グッズ扱いでも」
 クリスはいつの間にか、殿下と同じ服装になっていた。って、クリス殿下は?
「クリス殿下は、自室に戻ってるよ。僕らが一旦ここに来たのは、つじつま合わせの為。結界とくからね」
 キャロルに戻ってと言外に言っていた。

「足の方は、大丈夫だと思うけど」
「もう痛くないですわ。ありがとうございます。クリス殿下」
 なんだか賢者の方に殿下を付けると、不思議な感覚がするけど。
 サンルームは、私達が利用すると近衛騎士がやって来て護衛するために入り口に待機するので、二人で出て行ったという事実が必要なんだ。

 私たちはしばらくゲストルームの方へ歩いて行き、護衛が外れると一瞬でクラレンスの執務室に飛んだ。
 いや、本当に便利。

 クラレンスのすぐ横に出たのだけど、周りは皆無反応だ。結界の中なのね。
「あのさぁ。暇じゃないだろうけど、内緒の話があるから賢者の間に来てくれない?」
「……は?」
 クリスにいきなり言われて、クラレンスが呆けた返事をしている。
 そしてすぐに怪訝そうな顔に変わった。

「何で賢者の間? あそこは陛下と……あと、ごくわずかの選ばれた人間しか入れないだろう?」
「だから、選んでやったんだから、来て」
 クリスはイラっとした顔でそのまま賢者の間に空間を繋げた。

 ただっぴろく、中央の天井から布が幾重にも折り重なって中から色とりどりの光がもれる。最初に私が見た賢者の間。
 居心地が良いと感じていた、さっきまであったあの空間がなくなってる。

「なっ」
 いきなり賢者の間に連れて来られて、クラレンスが絶句している。
「言っておくけど、私は第二王子じゃ無いからね」
 クリスの服装も、第二王子の服装じゃなくなっている。と言うか、幾重にも布を使っているゲームの中の神官さんが来ているような服。ただ、色は黒っぽいけど。

 これって、国王陛下が代替わりする時や有事の時に謁見する姿なんだそうだ。
 もっとも、頭から布を被り顔は見せないらしいんだけど。

 クリスは、どこか近寄りがたいオーラを出している。
「賢者様」
 クラレンスがそう言って跪いて礼を執っている。
 なんでわかるんだろう? と思っていたら、初代英雄王の肖像画にそっくりらしい。
 次々と情報が入ってくるあたり、キャロルのスキルもたいがいチートだわ。

「さて、クラレンス。私に忠誠を誓えるか?」
 この前の宰相に言うよりも更に冷たい声のような気がするのは、気の所為じゃないかも。

「身命を賭して、忠誠を誓い申し上げます」
「本当に? その割には私が選んだ次期王妃(キャロル)をないがしろにしていたようだが」
 クリス……怒ってる。

「私はリリーを……。リリー・ブライアントを愛したことを後悔しておりません。たとえ、リリーが私と同じ想いを持っていなくとも……です」
 クラレンスは、跪いたまま言う。
「この事が、賢者様のご不興をかった事は、存じております。どうか、いかようにもご処分ください」
「ふぅん。良い覚悟だね」
 クリスの目の奥が怪しく光った気がした。

「クリス様?」
 なんだか嫌な予感がして、私は思わずクリスの名前を呼んだ。
「大丈夫。君が不安に思っている事は何もしないよ」
 私の方を向いたクリスは、穏やかに笑っているけど。

「キャロルがね。リリーを助けたいって言ってるのだよ。それも、自分の魂と引き換えにと、私に交渉を持ちかけてきた」
 その言葉を聞き、クラレンスが驚いて私を見る。
「キャロル。リリーを助けようと思ったら、本当にそうなってしまうかもしれないのだよ。その体に私の能力を入れようとすると、衝撃で君の魂が吹き飛んでしまうからね」
 そう説明してくれた。一つの体に無理やり二人分の魂を入れるって事は、そう言う事なんだ。

「なんで、そんな。キャロルが負うべき事じゃない」
 クラレンスが信じられないって顔をしている。
「な? 君もそう思うだろ?」
 肩をすくめるようにして、クリスも言った。
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