第4話 クリス側のお話 国家間の問題とロザリー姫
文字数 2,400文字
翌朝、僕はクラレンスの執務室に結界を張り、クラレンス、ダグラス、キャロルの兄リオンを呼び出していた。
呼び出したこのメンバーはいわゆる精鋭という奴で、一人でも脱落されると痛いと、僕はそう思っている。
クラレンスは次期国王だし、リオンも次期宰相になることが決まっている。
現国王の側室の子ダグラスは、賢者との取引に応じて他の貴族が頭角を現さない様に政敵を演じてくれる。ちなみに、賢者が選んだ婚約者は現宰相の娘、シルヴィア・ムーアクロフトだ。
彼女はすべての事情を知ったうえで、了承してくれた。
まだ、16歳の少女だと言うのに、すごい勇気だ。
何百年も続いた賢者不在の体制。
本来国王を支えるはずの王妃の存在を絶対とし、賢者の石が入れるように公爵の正妻にからの器の令嬢を産ませる。
その代わりと言うように、王妃を輩出した一門はその代の繁栄を約束されるというもの。
賢者が戻って来たからと言って、すぐに元の体制に戻せるものでもあるまい。
僕一人でなど、不可能だ。
この事だけでも、頭が痛いのに、今回のロザリー・アルンティルの件。
アルンティルという王国は、先々代の国王の時代からずっと戦争をしている。
今世代の国王になってからは、近隣を中心に、国土を広げている最中だ。
目に余るような侵略行為も無きにしも非 ずだが、被害が近隣に留まっている分にはこちらは意を唱える気は無かった。
なのにあの暴君王。何の策略のつもりか知らないが、王女をどんな扱いでもかまわないと送り届けてきた。
こちらへの要求は何も無く。
これでは、警戒するなと言う方が無理な話だろう?
「ロザリーは捨て駒だね」
僕は、昨夜、眠ってしまったロザリーの心の内を結構深くまで探っていた。
「捨て駒?」
クラレンスが聞き返してくる。
「そう。アルンティル王国は、ここ三百年ほどの新興国家だけど、独特の制度を保っているんだよ。ロザリーに限らず、他国に出される可能性のある人間には、自国の情報を全く与えない。嫁いだ先の国に従順であれと教育されているだけだ」
自白剤を警戒しているというよりも、僕みたいに心を探れる者たちを警戒しているのだろう。
うちの賢者といい、ピクトリアンの国王といい、未だにそういう能力を保持している者は少なからずいる。
「それでは諜報活動をする可能性は無いのでしょうか?」
確かにね。向こうの情報が取れず、こちらの情報が駄々洩れなのは困るからね。
「そういうつもりなら、国王か王太子の側室にという条件が付くはずだろ? 深層まで探ってもそういう指示 は無かったからねぇ」
無意識層まで探っても無いのだから、本当に何も知らされずここに来たのだろう。
「まぁ、そうだよな。王室を出ていくかもしれない人間には普通嫁がせないよな。しかし、アルンティル王国か……」
ダグラスがなんだか唸っている。
「何か、気になる事でもありますか? ダグラス殿下」
リオンがダグラスに訊いている。
「いや。結構な量の武器をかき集めているよな。と思って」
ダグラスが、ウィンゲート家に集まっている情報を思い出していた。
「ずっと戦争をしているからね。ある程度の国土になるまでは、近隣国を潰していくんだろうね。勢いに乗っているから、今のあの国とは戦争したく無いな」
「勝てませんか?」
僕のボヤキを拾ってリオンが訊いてくる。
「勝てるけど……。勝ち方だよね。勝てたけど、国土の半分は焼け野原になりました、ではシャレにならないでしょう?」
今までの経験と賢者の残忍性を合わせてシミュレートしても、そういう結果しか見えない。
あの暴君王は、確実に後の世で英雄王と言われるだろう。
平和ボケしている今のハーボルトが、そんな相手に勝てるだけましだと思ってもらいたい。
そんな中、クラレンスは何やら考え込んでいる。
いや、分かるけどね。可能性と言うか……静観してくれと言う懇願以外だったらもう、それしかないよねって感じのものが……。
「クラレンス。君の考えは正しいと思うよ。僕も昨夜、その考えにたどり着いた」
クラレンスとキャロルの心だけは、探らずとも読めるんだよね。
賢者の石の能力に一度晒 されているから。
「なんだ? その可能性って」
ダグラスがすかさず訊いてくる。
「ロザリーをここで死なせるために、送り込んだという事だよ」
「なっ」
ダグラスが絶句してる。いや、こんな事でショックを受けられても。
大丈夫かなぁ、王室の政敵役。
「アルンティルの、あの暴君王ならやりかねないって話だよ。どんな形でも我が国 でロザリーが死んでしまったら、正当な理由で戦争を仕掛ける良い口実になるだろうね」
僕はもう、確信してそう言った。
「アルンティルからしてみれば、うちは目障りだろうから。潰せるものなら潰しておきたいんだろうな。しかも、この作戦、失敗してもアルンティルには傷一つ付かないという狡猾さだ」
クラレンスも僕の発言を受けて自分の考えを言っていた。
僕らの意見に固まってしまったダグラスとリオンに対して
「まぁ、今の時点では憶測に過ぎないよ」
と軽い感じで言ってあげた。……けど、ダグラス。本当に大丈夫か?
「という事で、ロザリー は僕の好きにして良いって事で、かまわないかな? 陛下からせっかく貰ったんだし」
一応、みんなに確認する。後でクレームになっても困るからね。
「かまわないけど。その言い方、キャロルの前では、してくれるなよ。この前も、後が大変だったんだからな」
クラレンスから、うんざりした顔で言われた。
「そうですね。クリス殿下の不用意な発言で、こちらの仕事が増えますから」
リオンからも、そう言われてしまった。
キャロルの事を言われてもなぁ。まぁ、良いや。
ぼやく二人を無視して、僕はダグラスに話を振った。
「あっ、ダグラス。今度、身内でのお披露目パーティーがあるじゃない。お願いがあるんだけど……」
呼び出したこのメンバーはいわゆる精鋭という奴で、一人でも脱落されると痛いと、僕はそう思っている。
クラレンスは次期国王だし、リオンも次期宰相になることが決まっている。
現国王の側室の子ダグラスは、賢者との取引に応じて他の貴族が頭角を現さない様に政敵を演じてくれる。ちなみに、賢者が選んだ婚約者は現宰相の娘、シルヴィア・ムーアクロフトだ。
彼女はすべての事情を知ったうえで、了承してくれた。
まだ、16歳の少女だと言うのに、すごい勇気だ。
何百年も続いた賢者不在の体制。
本来国王を支えるはずの王妃の存在を絶対とし、賢者の石が入れるように公爵の正妻にからの器の令嬢を産ませる。
その代わりと言うように、王妃を輩出した一門はその代の繁栄を約束されるというもの。
賢者が戻って来たからと言って、すぐに元の体制に戻せるものでもあるまい。
僕一人でなど、不可能だ。
この事だけでも、頭が痛いのに、今回のロザリー・アルンティルの件。
アルンティルという王国は、先々代の国王の時代からずっと戦争をしている。
今世代の国王になってからは、近隣を中心に、国土を広げている最中だ。
目に余るような侵略行為も無きにしも
なのにあの暴君王。何の策略のつもりか知らないが、王女をどんな扱いでもかまわないと送り届けてきた。
こちらへの要求は何も無く。
これでは、警戒するなと言う方が無理な話だろう?
「ロザリーは捨て駒だね」
僕は、昨夜、眠ってしまったロザリーの心の内を結構深くまで探っていた。
「捨て駒?」
クラレンスが聞き返してくる。
「そう。アルンティル王国は、ここ三百年ほどの新興国家だけど、独特の制度を保っているんだよ。ロザリーに限らず、他国に出される可能性のある人間には、自国の情報を全く与えない。嫁いだ先の国に従順であれと教育されているだけだ」
自白剤を警戒しているというよりも、僕みたいに心を探れる者たちを警戒しているのだろう。
うちの賢者といい、ピクトリアンの国王といい、未だにそういう能力を保持している者は少なからずいる。
「それでは諜報活動をする可能性は無いのでしょうか?」
確かにね。向こうの情報が取れず、こちらの情報が駄々洩れなのは困るからね。
「そういうつもりなら、国王か王太子の側室にという条件が付くはずだろ? 深層まで探ってもそういう
無意識層まで探っても無いのだから、本当に何も知らされずここに来たのだろう。
「まぁ、そうだよな。王室を出ていくかもしれない人間には普通嫁がせないよな。しかし、アルンティル王国か……」
ダグラスがなんだか唸っている。
「何か、気になる事でもありますか? ダグラス殿下」
リオンがダグラスに訊いている。
「いや。結構な量の武器をかき集めているよな。と思って」
ダグラスが、ウィンゲート家に集まっている情報を思い出していた。
「ずっと戦争をしているからね。ある程度の国土になるまでは、近隣国を潰していくんだろうね。勢いに乗っているから、今のあの国とは戦争したく無いな」
「勝てませんか?」
僕のボヤキを拾ってリオンが訊いてくる。
「勝てるけど……。勝ち方だよね。勝てたけど、国土の半分は焼け野原になりました、ではシャレにならないでしょう?」
今までの経験と賢者の残忍性を合わせてシミュレートしても、そういう結果しか見えない。
あの暴君王は、確実に後の世で英雄王と言われるだろう。
平和ボケしている今のハーボルトが、そんな相手に勝てるだけましだと思ってもらいたい。
そんな中、クラレンスは何やら考え込んでいる。
いや、分かるけどね。可能性と言うか……静観してくれと言う懇願以外だったらもう、それしかないよねって感じのものが……。
「クラレンス。君の考えは正しいと思うよ。僕も昨夜、その考えにたどり着いた」
クラレンスとキャロルの心だけは、探らずとも読めるんだよね。
賢者の石の能力に一度
「なんだ? その可能性って」
ダグラスがすかさず訊いてくる。
「ロザリーをここで死なせるために、送り込んだという事だよ」
「なっ」
ダグラスが絶句してる。いや、こんな事でショックを受けられても。
大丈夫かなぁ、王室の政敵役。
「アルンティルの、あの暴君王ならやりかねないって話だよ。どんな形でも
僕はもう、確信してそう言った。
「アルンティルからしてみれば、うちは目障りだろうから。潰せるものなら潰しておきたいんだろうな。しかも、この作戦、失敗してもアルンティルには傷一つ付かないという狡猾さだ」
クラレンスも僕の発言を受けて自分の考えを言っていた。
僕らの意見に固まってしまったダグラスとリオンに対して
「まぁ、今の時点では憶測に過ぎないよ」
と軽い感じで言ってあげた。……けど、ダグラス。本当に大丈夫か?
「という事で、
一応、みんなに確認する。後でクレームになっても困るからね。
「かまわないけど。その言い方、キャロルの前では、してくれるなよ。この前も、後が大変だったんだからな」
クラレンスから、うんざりした顔で言われた。
「そうですね。クリス殿下の不用意な発言で、こちらの仕事が増えますから」
リオンからも、そう言われてしまった。
キャロルの事を言われてもなぁ。まぁ、良いや。
ぼやく二人を無視して、僕はダグラスに話を振った。
「あっ、ダグラス。今度、身内でのお披露目パーティーがあるじゃない。お願いがあるんだけど……」