リリー嬢と一緒に逃げた男の話 3
文字数 2,157文字
「面白いね、君。せっかく帰れるところだったのに」
人の形になりだして、少しずつ光が収まっていた。って言うか、牢屋の中だぞ。
「リリーの事が好き? 一緒に死んでも良いと思うほどに……」
「ああ。俺を生かしてても、王太子の暗殺を企むだけだぞ」
俺のその言葉に、目の前の青年はニッコリ笑う。
「あんな、今にも処刑されそうな王太子の暗殺を企むくらいなら、リリーと一緒に逃げれば良いのに」
「出来ることならそうしてる」
そういえば、そうだねぇって青年は手から袋を2つ生み出した。どこから出したのか本当に分からない。大きい方には銅貨がぎっしり。小さい方には、砂金が入っていた。
「今夜だけ、君とリリーを見かけてもスルーするように結界を張ってあげる。どうにか説得して、逃げなよ。でないと、明日には処刑されてしまうから」
「お……お前は、だれだ?」
俺は、目の前のにこやかに笑っている得体のしれない青年に恐怖しか感じなくなっていた。
「さすがにお前呼ばわりされたことは無いかな? まぁ、君たちが言うところの賢者だよ。周りに流されただけの、令嬢 を処刑するのは忍びなくてね。しかも、相手が王太子ならリリーに拒否権なんかなかっただろうし。連れて逃げてくれるのなら有り難いと思うよ。追っ手は、なるべく出させないようにするけれど……出てしまったら、ごめんね」
恐怖しか感じなかったのに、賢者というあの青年の言う通りに行動した。
彼から、先程の二つの袋が入った肩からかけれる小さなカバンを貰い。リリーがいる方の牢屋に行く。賢者の言った通り誰も俺に気を留めない。カギも、俺がさわっただけで無くなった。
「リリーお嬢様。俺……私と一緒に逃げましょう。今なら逃げれます。協力してくれる人がいるんです」
「でも、お父様とお母様が……」
そうだった、連れて逃げだせるのはリリーお嬢様のみ。リリーお嬢様は、決して自分だけ逃げようとは思わない。
「そうですね。分かりました、私もおそばにいます。昔話でもしていましょうか」
ここに来られただけでも、最後まで側に入れるだけでも良いか。俺もそう思うことにした。ここのカギを外した時点で、脱走を手助けしたと見なされ、俺も同罪だ。
「そんな。ハンスは逃げて」
「リリーお嬢様が、私を拾ってくれなければ、この歳まで生きれたかどうか分かりません。下町の浮浪児は殆どが成人する前に亡くなってますから。だから、リリーお嬢様が死を選ぶのであればお供します」
「リリー、逃げなさい。私たちのことは気にせずに」
「お父様。そんな」
「だいたい、私がウィンゲート公爵の甘言に乗らなければ、こんな事にならなかったんだ。リリーのせいでは無い。逃げて、このブライアント伯爵家の血を残しておくれ」
「血を残す……。分かりました。お父様、お母様。私は生き残れるように努力しますわ」
リリーお嬢様は、何かを決意したかのようにそう言う。
「ハンス。私を連れて一緒に逃げてくれる?」
そう言って、リリーお嬢様は俺の方に手を差し伸べる。
「お心のままに。リリーお嬢様」
「リリーで良いわ。もう、伯爵家の令嬢でも何でも無いのだから」
以前のような笑顔は無い。両親は明日処刑されてしまうのだ、リリーはずっと両親を見捨てたという業を背負うことになる。
城内も、お城を出てからも俺たちにかまうものはいない。本当に、賢者は結界を張ってくれていたようだった。
賢者がくれた銅貨で、リリー様と俺の服と靴を買った。ドレスと貴族の使用人の服は目立つので、自分たちが向かうのと反対方向で、売り払ってしまう。
これからの逃亡生活、どれだけ続ければいいのかも分からないんだ。お金はいくらあっても良い。
そして、逃亡生活を続けて、何日経っただろうか、食料を買っていた店で、俺たちに追っ手が掛かったことを知った。
なるべく、不自然に映らないように携帯食を買っていく。
国境を越えるのには、身分を証明するものがいる。何もなくても庶民にはハードルが高いのに、俺たちの指名手配書は、もういっているだろう。
後は、険しいけど国境沿いの山脈に入るしか無い。あそこなら、猟師か木こりかそういうのを生業としている者しか通らないので、国境も殆どフリーで行ける。
「リリー様。少し険しい道になりますが、山を越えて隣の国に入ろうと思います。違う国にまで、追っ手を差し向ける事は無いでしょうから」
「ええ。わかったわ」
リリー様はニッコリ笑って俺に言う。今まで、不便ばかりだったろうに、何も不満を言わずに俺に付いてきてくれている。
俺は、山のふもとでリリー様に背を向けてしゃがみ込む。これで、覆い被さってくれるだけで、おんぶが出来る。
俺は、リリー様を背負ってこの山を超える覚悟をしていた。
「ハンス。何をしているの?」
「険しい山ですので、背負っていこうかと……」
「失礼ね。自分の足で歩けるわよ。行きましょう」
プイッと、そっぽ向いて歩き出す。
「あ……そんなに勢いよく歩き出すと……」
案の定、リリー様は足を踏み外し段差に滑り落ちそうになっていた。
とっさに抱き留める。
「だから言ったのに……怪我はありませんか?」
リリー様が俺の腕の中でクスクス笑う。
「ありがとう。ハンスのおかげよ。怖かったけど、ハンスが庇ってくれるから楽しいばっかりよ、私」
人の形になりだして、少しずつ光が収まっていた。って言うか、牢屋の中だぞ。
「リリーの事が好き? 一緒に死んでも良いと思うほどに……」
「ああ。俺を生かしてても、王太子の暗殺を企むだけだぞ」
俺のその言葉に、目の前の青年はニッコリ笑う。
「あんな、今にも処刑されそうな王太子の暗殺を企むくらいなら、リリーと一緒に逃げれば良いのに」
「出来ることならそうしてる」
そういえば、そうだねぇって青年は手から袋を2つ生み出した。どこから出したのか本当に分からない。大きい方には銅貨がぎっしり。小さい方には、砂金が入っていた。
「今夜だけ、君とリリーを見かけてもスルーするように結界を張ってあげる。どうにか説得して、逃げなよ。でないと、明日には処刑されてしまうから」
「お……お前は、だれだ?」
俺は、目の前のにこやかに笑っている得体のしれない青年に恐怖しか感じなくなっていた。
「さすがにお前呼ばわりされたことは無いかな? まぁ、君たちが言うところの賢者だよ。周りに流されただけの、
恐怖しか感じなかったのに、賢者というあの青年の言う通りに行動した。
彼から、先程の二つの袋が入った肩からかけれる小さなカバンを貰い。リリーがいる方の牢屋に行く。賢者の言った通り誰も俺に気を留めない。カギも、俺がさわっただけで無くなった。
「リリーお嬢様。俺……私と一緒に逃げましょう。今なら逃げれます。協力してくれる人がいるんです」
「でも、お父様とお母様が……」
そうだった、連れて逃げだせるのはリリーお嬢様のみ。リリーお嬢様は、決して自分だけ逃げようとは思わない。
「そうですね。分かりました、私もおそばにいます。昔話でもしていましょうか」
ここに来られただけでも、最後まで側に入れるだけでも良いか。俺もそう思うことにした。ここのカギを外した時点で、脱走を手助けしたと見なされ、俺も同罪だ。
「そんな。ハンスは逃げて」
「リリーお嬢様が、私を拾ってくれなければ、この歳まで生きれたかどうか分かりません。下町の浮浪児は殆どが成人する前に亡くなってますから。だから、リリーお嬢様が死を選ぶのであればお供します」
「リリー、逃げなさい。私たちのことは気にせずに」
「お父様。そんな」
「だいたい、私がウィンゲート公爵の甘言に乗らなければ、こんな事にならなかったんだ。リリーのせいでは無い。逃げて、このブライアント伯爵家の血を残しておくれ」
「血を残す……。分かりました。お父様、お母様。私は生き残れるように努力しますわ」
リリーお嬢様は、何かを決意したかのようにそう言う。
「ハンス。私を連れて一緒に逃げてくれる?」
そう言って、リリーお嬢様は俺の方に手を差し伸べる。
「お心のままに。リリーお嬢様」
「リリーで良いわ。もう、伯爵家の令嬢でも何でも無いのだから」
以前のような笑顔は無い。両親は明日処刑されてしまうのだ、リリーはずっと両親を見捨てたという業を背負うことになる。
城内も、お城を出てからも俺たちにかまうものはいない。本当に、賢者は結界を張ってくれていたようだった。
賢者がくれた銅貨で、リリー様と俺の服と靴を買った。ドレスと貴族の使用人の服は目立つので、自分たちが向かうのと反対方向で、売り払ってしまう。
これからの逃亡生活、どれだけ続ければいいのかも分からないんだ。お金はいくらあっても良い。
そして、逃亡生活を続けて、何日経っただろうか、食料を買っていた店で、俺たちに追っ手が掛かったことを知った。
なるべく、不自然に映らないように携帯食を買っていく。
国境を越えるのには、身分を証明するものがいる。何もなくても庶民にはハードルが高いのに、俺たちの指名手配書は、もういっているだろう。
後は、険しいけど国境沿いの山脈に入るしか無い。あそこなら、猟師か木こりかそういうのを生業としている者しか通らないので、国境も殆どフリーで行ける。
「リリー様。少し険しい道になりますが、山を越えて隣の国に入ろうと思います。違う国にまで、追っ手を差し向ける事は無いでしょうから」
「ええ。わかったわ」
リリー様はニッコリ笑って俺に言う。今まで、不便ばかりだったろうに、何も不満を言わずに俺に付いてきてくれている。
俺は、山のふもとでリリー様に背を向けてしゃがみ込む。これで、覆い被さってくれるだけで、おんぶが出来る。
俺は、リリー様を背負ってこの山を超える覚悟をしていた。
「ハンス。何をしているの?」
「険しい山ですので、背負っていこうかと……」
「失礼ね。自分の足で歩けるわよ。行きましょう」
プイッと、そっぽ向いて歩き出す。
「あ……そんなに勢いよく歩き出すと……」
案の定、リリー様は足を踏み外し段差に滑り落ちそうになっていた。
とっさに抱き留める。
「だから言ったのに……怪我はありませんか?」
リリー様が俺の腕の中でクスクス笑う。
「ありがとう。ハンスのおかげよ。怖かったけど、ハンスが庇ってくれるから楽しいばっかりよ、私」