第8話 僕は保護者じゃ無いよ。

文字数 1,145文字

 王宮の夜会が終わり、クリス様はすぐに書類の確認に戻って行ったようだ。
 何の書類を毎日確認しているのかと思ったら、私達の新居になるお屋敷候補を絞っていたらしい。
 夜、この部屋で確認して日中は候補地に向かっているのだと、侍女が教えてくれる。
 なんだかすごく慎重に選んでいるのね。

 私はというと、軽く食事をした後、湯あみをしていた。
 そう言えば、今日の男性。私の事を、スパイだと言っていた。
 別に、ここで何かを探っている訳でも無いし、国からもそういった指示は出ていないのに。
 クリス様が普段そっけなくしているのは、私の事をスパイだと疑っているからかしら。

 いつものように、マッサージをされ寝間着に着替えさせられてから、お部屋に戻って寝室へ入る。
 夜会は夜遅くまであるので、湯あみをしたらすぐにベッドへ入って眠る様にとのクリス様の指示を忠実に守っていた。

 だけど、今日は何だか寝付けない。
 今日に限って、クリス様もなかなか寝室に入って来なかった。
 私は寝室のドアを開け、お部屋の方に向かってしまっていた。
 
 ランプをテーブルに置き、珍しくクリス様がソファーの方で書類を見ていた。
 後ろからそ~っと近づいてみたら、なんだかお屋敷の見取り図のようなものを見ている。
 私はつい夜会の続きのように、クリス様に甘えてしまった。
 
 ソファーに座っているクリス様の後ろから、そっと抱きしめる。
「クリス様。まだ起きていらっしゃるのですか?」
 そう言うと、私の手がスルッと外された。
「子どもが起きている時間じゃ無いな」
 クリス様からそう言われて、ソファーに引きずり込まれ……。
 怖い。落ちる。そう思ったのに、何か暖かい膜のようなもので体が包まれて。
 私は、クリス様から膝枕をされた感じになって、ソファーに横たわっていた。

「最近の態度で、誤解させたかな? 僕はロザリーの保護者じゃないよ」
 その声の冷たさに、私の体はビクッとなってしまった。
 怒らせてしまった? 
「あ……あの。ごめんなさい」
 でも、なんだろう。怒っているみたいなのに、優しい。
 さっきだって、ソファーに乱暴に引きずり込んだ感じなのに、どこも痛くなかった。

 クリスはため息を吐いている。
「今日はイヤな思いをしたからね。良いよ。このまま寝てしまって。僕が寝る時に一緒にベッドに運ぶから。おやすみ」
 私にそう言って、また書類に目を通し始めた。
 
 …………保護者じゃ無いって言ってたよね。
 確かに、夫になるのだし、私は人質同然にこの国へやって来ただけだから、クリス様は保護者じゃ無いんだろうけど。

 自分の国でも、こんな甘やかすような扱いを受けた事が無かったから、私は戸惑ってしまう。
 その内に、紙をめくる音や、クリス様の気配を感じながら寝入ってしまっていた。
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